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第捌拾漆戦 無責任 ページ40

長谷部は渋面を浮かべ何か言いたそうにしているが、鶴丸に笑われながら背中を叩かれている。

「おい、長門……!」

「はい?」

山姥切は、仲間の無事を安堵する刀剣男士を見守る主の許へ駆け寄った。両腕を突然掴まれ少し動揺する長門に、食い入る様に問い詰める。

「あんたは自分で何を言ったか分かってるのか……!付喪神と簡単に約束するもんじゃない!術に身を食われるぞ!」

初期刀に窘められるも、長門は目を伏せ俯いた。山姥切は前々から思っていたが、彼はあまりに軽率すぎる。付喪神は低級の神でありながら、妖怪としての一面も持ち合わせる。
一度この本丸は堕ち掛け、人間に良い感情を持つ者は殆ど居ない。一応の建前として主と呼ばれているが、心から認めている者はまだ少ないのだから。

「死ぬ覚悟なら、何時でも出来ていますよ」

初めて顔を合わせた時と同じ、死んだ目を浮かべた長門は、それが軍人ですから、と何の感慨も見せずに付け足す。
だが山姥切もそこで終わらせる訳がない。

「あんたがここまで無責任だとは思わなかった!」

思わず声を張り上げた山姥切を皆が驚いて顧みる。気まずい雰囲気が漂い始め、山姥切は襤褸布を深くかぶり直すと、一足先に本丸内に戻って行った。

「……大将どうしたの?」

「主、山姥切と何が……」

下から覗き込んでくる信濃と駆け寄ってくる長谷部に、長門は何でもないと首を横に振る。山姥切の言う通り、自分は無責任なのだろう。事実、過去の未練も未だ引き摺っている。正直な話、まだ審神者という自覚が湧かない。
口で何度言われようと、自分を洗脳するように言い聞かせても、まだ心はあの夏の日で立ち止まっていた。
敗戦の知らせを受けた8月15日の正午に────。

◆◇◆

結局、山姥切と長門は朝食中、一言も会話を交わさなかった。燭台切と長谷部に片付けを頼むと、やることがあると言って彼は審神者部屋に戻った。

「長谷部君、長門君と山姥切君、何かあったの?」

「……何だ藪から棒に」

厨房で朝食の片付けをする燭台切が隣に立つ長谷部を顧みる。帰って来てからというもの、二人の様子がどうも可笑しいのは分かっていた。

「だって山姥切君、長門君と離れて行動してるし……」

「あの方は複雑な事情を抱えてるんだろう。俺たちが口出しするべきじゃない」

未だ納得が行かないと言いたげな燭台切だが、大人しく引き下がる。訊き訳がないほど、デリカシーの無い男ではないのを長谷部はわかっていた。

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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

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