第捌拾肆戦 徘徊 ページ37
どこか母屋の方が慌ただしい気配がする。
───三日月宗近と今剣が居ない。
獅子王と山姥切、陸奥守から報告を受け、長門は一度広間へ全員を集めた。起きて来たばかりの短刀や、蛍丸は目を擦っている。日本号や次郎太刀は遅くまで酒盛りしていた所為で、酔いが抜けてないらしい。
「三日月は早起きだからな、散歩にでも行ったんじゃないか？」
「今剣は三日月に付いて行ったんだと思うぜ」
三日月と今剣の本体や正装は部屋に置いてあった。獅子王と鶴丸の言葉通り、散歩なら納得が行く。散歩というよりはただの徘徊だろう、と笑えない長谷部のツッコミが即座に飛ぶ。
だが日が昇って随分経つので何かあってからは遅いと、獅子王や陸奥守、鶴丸が、事の発覚後、すぐに二振りを探しに行っていた。
「本丸内は全て探したんですよね？」
少しの間、俯いて考え込んでいた長門は、山姥切と陸奥守を顧みる。二振りはハッキリと頷くと、長門は徐に立ち上がる。
「すぐに戻って来るので、皆さんは此処に居てください。大勢で探して入れ違いは避けたいので」
光忠と陸奥守、鶴丸を中心に指示を出し、一先ずは朝食の支度をしてほしいと告げる。
山姥切、長谷部、加州を伴うと、長門はすぐに自室に置いてある太刀を取に向かった。こんのすけにナビゲートさせ、開錠させると本丸の門を潜った。
◆◇◆
一方、今剣と三日月は本丸から少し離れた裏山に来ていた。
長門が起きる少し前の事、三日月は日が昇る前に目を覚ましていた。眠りが浅く未だ落ち込んだ様子の今剣を連れ、散歩に出かけたのである。
前任から解放されても、その心身に深く根付いたトラウマは消えない。また薄暗い離れに長い時間軟禁され、時間感覚すら狂い始めていた。
眠ると必ずと言って良いほど夢に出てくる。自分を慰み者にしたあの男が、人質として今剣に手を上げている光景が。言霊で縛られ動けないのを良い事に、好き勝手嬲ったあの下衆の嗤った顔が。
「今剣や、そろそろ帰らねば。主や皆が心配している」
「……まだ、かえりたくないです」
ぎゅっと今剣は、三日月の寝巻の袖を握り締める。日の出から数時間、殆ど動かず、今剣は三日月の着物の袖を握り続けていた。
三日月に背負われ、本丸の周辺を散歩していた時も、ずっと縋るように背に額を押し付け、嗚咽を堪えていた。
「岩融に……あいたい……」
消え入りそうなか細い声で、今剣は呟く。その願望すら、眩しいくらいの朝日の前ではちっぽけな物に感じた。
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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか！私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (
レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね？現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます！(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料？とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて･･･ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません；； (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ！退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：大日戦 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時：2016年12月18日 22時
