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第捌拾壱戦 原石 ページ34

東が政府へとんぼ返りした後、長門はまだ眠りの淵に片足を突っ込んでいるこんのすけを膝に乗せ、毛並に沿って撫でていた。特に意味は無いが、こんのすけも嫌がる素振を見せない。

「あんたは、早いな……」

暫くの間、縁側で庭を眺めながらぼーっとしていれば、目を覚擦りながら起きてきた初期刀の山姥切が、背後から声を掛けてくる。
相変わらず襤褸布は肌身離さない山姥切は、鬱屈そうな目で主を見下ろしていた。布の隙間から覗く翠眼が朝日に反射して黄金混じりに映え、人知れず長門は感嘆を溢す。
綺麗な成りをしているのだから襤褸布を手放しても良いのに、と周りは言うが、その都度 長門は山姥切を宝石の原石と同じだと比喩した。

「おはようございます。軍では集団行動が基礎中の基礎ですから、慣れてるんです」

「(……基準が違う)」

主の異常なまでの早起きな習慣に感心しつつも、同じ様にはなりたくないと山姥切はひとりごちる。長門も自分は早く起きても山姥切や他の刀剣男士を起こそうとはしない。
未だ疲労の抜け切っていない刀剣男士たちに気を遣っているのだろう、とも山姥切は考える。

「私は厨房を手伝ってくるので、もう暫くしたら皆さんを起こしてあげてください」

小一時間ほど経ったら、山姥切に他の刀剣男士を起こすように頼むと、長門は太刀を部屋に置いて足早に、厨房に居るであろう光忠と長谷部を手伝いに向かう。
まだ人数はそこまで多くないが、二人だけで全員分の食事を作るとなれば時間が掛かる。長門は専門的な知識も腕もないが、人並み以上ならば炊事が出来る。

「光忠さん、長谷部さん、おはようございます」

ふわりと漂う味噌の香りと、炊飯の独特な匂いが鼻を撫でる。厨房に立つ長身の黒いジャージの青年と、白地に紫色のラインの入ったジャージの青年を目に留めた。

「長門君、おはよう。どうしたの?」

「主、おはようございます。まだ休んでいらして大丈夫ですよ」

「いえ、私もお手伝い出来ればと。二人では大変でしょう?」

光忠と長谷部に有無を言わさず、手伝うとのたまう長門は、軍服の襦袢を手早く捲ると、背筋が震える温度の井戸水に手を付ける。外は残暑が厳しい朝日が照り付け、空蝉の声が裏山中に響き渡っている。
薄暗く土間になっている厨房だが、火を使う分、窓を全開にしても蒸し暑い。二振りと一人はその中でも表情一つ変えず準備を進めた。

「君は主なんだから、まだ寝てても大丈夫だよ」

「主だからこそ、とは言わないのですか」

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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

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