第捌拾弐戦 有機栽培 ページ35
「……貴方の前の主殿の様に」
器用に野菜を刻む長門の横顔を、光忠は流し目で顧みた。相変わらず無表情で元々口数が少ないので何を考えているかよくわからない。
主だからこそ部下に任せるべきだという根底を彼は否定した。階級制が長く続くこの世を見てきたはずでは、と光忠は思う。
長い間独り暮らしをしていた長門は、海軍時代や陸士の教官だった際も、よく自炊をしていた。だから誰かに頼るよりも、思い立ったらすぐ自分で実行する。
長門の行動力や良い意味での気の短さは、長年過ごしてきた環境の積み重ねだったのであろう。
そして長門の言う光忠の前の主とは、奥州筆頭、伊達政宗公。伊達政宗公は、客人に自ら手料理を振る舞う程の料理好きだった。光忠が料理上手な一面は前の主の名残であろう。
「私は別に過去の階級や地位を使って威張り散らそうなんて思いませんよ。所詮階級なんて過去の栄光、縋るだけ虚しくなります。ったくどっかの飯マズ国家は何時までもネチネチと……」
「……飯マズ？」
一瞬、二振りと審神者の間に哀愁を帯びた気配が漂った気がしたが、すぐに長門の何気ない一言に掻き消され、長谷部と光忠は顔を見合わせた。
「長門君って……割と料理への拘りは強いんだね」
「当たり前じゃないですか」
大根を器用に桂剥きする長門を見て、光忠は安心したように微笑んだ。戦闘と血に埋もれたイメージのある旧軍人とは言えど、やはり日本人。美味い飯については、やたらと口うるさい一面がある。
「少しでも美味しい飯を食べたいと思うのは、日本人の性だと思いますね。緑豊かで食べ物も豊富、自然の恵みに感謝するのが神道国家です」
前線に出向く兵子たちは、日に日に消耗する食糧を前に苦労をしている。食糧不足で体力が尽き、負傷者を見捨てなければならない決断を下させられた部隊もあった。
また口減らしと称して無謀な夜襲をかけた部隊もあった。その苦悩を知っているからこそ、長門は飯には人一倍拘っていた。
「長門君、今度内番で畑を手入れしたら、有機野菜の栽培してみたいんだ」
「農薬を使わずに栽培する方法……ですか……？良いですね、やりましょう」
未来の自家製野菜の栽培法を聞くなり、長門の目が輝く。ふと光忠は、主が少し楽しそうな表情をしていると気付き、静かに微笑んだ。
彼は持てる殆どの才能を血と戦で染め上げてしまった。だがその本質は、人を思い遣る優しさと包容力に満ちた青年である。きっと彼は自覚している。
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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか！私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (
レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね？現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます！(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料？とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて･･･ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません；； (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ！退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：大日戦 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時：2016年12月18日 22時
