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第陸拾漆戦 工兵 ページ21

姿を現した妖精に、長門が表情を引き締めながら指示を出した。工兵の妖精たちは、その短い手を精一杯振り上げて応える。

「わぁぁ……何て良く出来る子達なんでしょう!どっかの馬鹿(ブリカス)とは違って可愛いげがあって控え目に言って最高です」

「おい、長門……」

「あ、すいません。私としたことが。失敬」

思わず口元が緩んでいたが、後ろから山姥切に声を掛けられ、長門は我に返る。妖精だけに任せず、二人も作業を始めた。
まず乱雑に積み重なるゴミを粗方分別し、袋に突っ込んだ。洗って汚れが落ちる物は、盥に入れて水で濯ぐ。床の汚れや、カビなどは亜塩素酸の洗剤で残さず拭い取る。
窓や竃の埃は、換気をすると共に叩きで振るい落とす。箒で掃いて、雑巾掛けをした。

せっせと掃除をすることおよそ2時間。妖精と長門、山姥切の手際良い連携作業で、ようやく台所の水回りが綺麗になった。赤疲労の山姥切と長門は、暫く背中合わせに座り込んでいた。

「ふざけんなよ……。汚すのは10分で出来ても掃除は数倍時間掛かんだよ」

「本気で掃除終わるのかこれ」

溜め息を溢す長門と山姥切の膝の上に、工兵の妖精がよじ登ってきた。疲れた一人と一振りを励ます様に、彼らは可愛らしい笑顔を見せる。

「ふふ、ありがとう。大丈夫ですよ」

応える為に、長門が妖精の頭を撫でてやると、嬉しそうに飛び跳ねて見せた。

「随分そいつらを気に入ってるな」

「妬いてるんですか?」

「それは絶対ない」

冗句でからかった長門に、ハッキリと山姥切は否定する。山姥切も、冗談だとわかって否定した模様。
二人共、冗句が言える元気があるだけ、まだ戦える。ある程度休むと、再び二人は掃除に取り掛かった。

◆◇◆

工兵の妖精と共に掃除に勤しむ事早数時間、天高く昇っていた太陽も西に傾き始めていた。台所の水回りは無事に終わり、床や壁の掃除も何とか終わらせた。
逆に考えるとこれだけ酷い環境で、よく無事で居られたとつくづく思う。疲労で座り込む山姥切と妖精を視界の端に留め、長門は立ち上がった。

廊下の窓から西日が射しこみ、紅い光の筋を生み出す。眩しい程の西日に、手で日陰を作ると長門は薄目になり一度自室へ軍服と刀を置きに戻った。一先ず人数分の食事を作らなければならない。

「重労働で腰が……」

若い外見に似合わない爺臭い発言をする。事実、ジジイだが。歳は取りたくないと自嘲しながら、厨房に入ろうとすると、ふと漂う味噌の香りに首を傾げた。

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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

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