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第陸拾陸戦 三種 ページ20

「山姥切さん、せめて布は置きましょう」

「写しには汚れているのが一番お似合いだ」

自分一人では手が回らない面を手伝ってくれるのは良い。だが折角綺麗な成りをしているのに、これ以上布が汚れるのが長門は気に食わない。
少し拗ねた様子で卑屈な言動をする初期刀を一瞥すると、長門は少し間を置いて口を開く。

「……貴方は良くても私は認めません。何なら戯れに相撲でも取って私に勝てるなら異論を認めます」

「………」

何故戯れに相撲なのかというツッコミも入れる気になれず、また言い返す言葉も見つからず、渋々山姥切は頭から被っている布を脱いだ。
丁寧に畳んで汚れない場所に置くと、仁王立ちしている長門を顧みる。

「これで良いか」

「はい」

「あんたは……その軍跨は余所行き用だろう」

やや不満げだが、山姥切は主の言う事は割とちゃんと聞く。長門はタオルを防臭マスク代わりに渡した。軽装になったとはいえ、長門の軍服が汚れるのを気にする山姥切に、審神者は少し自嘲気味に返す。

「こういう汚れ仕事は三種軍装※を着るんですが、生憎、一種しか持ち合わせておりませんので。主が褌一丁で汚れ仕事してるのも嫌でしょう?流石に見たくも無いでしょ褌。見たくないでしょ褌」

「分ったから二度言わなくて良い!」

(※海軍士官用の作業服。デザインは時代の都度、ちょくちょく変わっており、色もカーキだった為、海の男たちからは芋臭いだの陸軍っぽいだの不評だった。
また陸戦隊(陸で戦う水兵)の軍服としても使用されているが、陸戦隊が白の水兵服や紺色の水兵服を着ていると目立って仕方ないので、生存率の意味では文句は言えない。陸上自衛隊の制服に見えなくもない。写真を見た時 陸軍かと思ったら海軍だった!ってコトもある模様)

「工兵と衛生兵呼びたい」

「俺たち二人で終わるか?これ?」

「そういう事もあろうかと、東さんと神成さんから御札を貰っています」

いざゴミの山と対峙すると、その敵の強さがよくわかる。真顔で陸軍の科の名前を出す辺り、余程の強敵らしい。
長門が取り出したのは、不思議な模様と文字が描かれた紙幣サイズの札である。それを空中に霊力を込めて投げると、札が小さな人型の形を模した。

刀装兵の様な雰囲気だが、その纏う装いは甲冑ではなく軍服。しかもカーキの詰襟の軍服に、襟元は律儀に小豆色の装飾がしてある。地味な凝り性に、思わず長門は口元を緩めた。

「可愛いですね……。皆さん、お手伝い宜しくお願いします」

第陸拾漆戦 工兵→←紀元節と建国記念日



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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

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