第伍拾戦 名誉 ページ3
「……沖田君」
目の前の青年が一体何を願って、一体何を見て来たかは知らない。しかし前の主を彷彿させる瞳に、加州は強い既視感を覚えた。
戦乱と動乱の波に飲み込まれ、病に臥せったかつての主を護りきれなかった無念────
差し出された新たな審神者の手を、加州は取った。
もう仲間を失いたくない。あの前任に汚された前の主の汚名を挽回したい。かつての相棒に会いたい。もう一度、幸せな時間を噛み締めたい。
前の主の言葉と、この青年の掲げる士道を信じてみたいと思った。自分自身の中にある希望や欲も、勿論ある。だからこそ、この青年について行きたい。燭台切や鶴丸が見出した何かを無意識に感じ取っていた。
◆◇◆
「ねぇ、審神者さん。ちょっと良い？……長谷部の事なんだけど」
「はい。場所を変えましょうか？」
「大丈夫だよ」
長谷部の事、というのは前任絡みの話だろう。場所を変えた方が良いという長門の気遣いに、加州は大丈夫だと頷いた。やはり他の刀剣男士同様にトラウマが植えつけられているのか、あまり顔色は良くない。
「審神者さんは、前任の前に俺たちを具現化させた審神者が居るの、知ってる？」
「はい。鶴丸さんと燭台切さんから伺っております」
「そっか……。それでね、その人を殺したの……あの前任だよ」
声の震えを抑えながら絞り出された加州の言葉に、長門の全身に戦慄が奔り、鳥肌が粟立った。長谷部があれほどまで人間不信になった理由の一つが明らかになった。
長谷部含む一部の古参の刀剣男士は、最初から長門を遠ざけていた。前田藤四郎と鳴狐は、兄弟を助けて欲しい為、長門に近付いたのだろう。
陸奥守はよくわからないが、恐らく連帯感から来るものであろう。目の前で憎き前任を締め上げ、尚且つ当然の社会的制裁と私的制裁。
もしかしたら元々聡明な陸奥守は、報復の機会を狙っていた他の刀剣男士を止めようとしていたのかもしれない。長門が現れた事で、前任に彼らが刃を向ける大義名分は消え、報復の機会は失われた。状況から考えると有り得る話だ。
「長谷部にとって、あの人は生涯仕えたい唯一無二の存在だった。でも前任が此処を乗っ取って、次々仲間も折られた……長谷部は最初は、あの前任に抵抗しようとしてたんだ。でも目の前で仲間を次々傷つけられて、これ以上は犠牲を出すだけだからって……」
「自ら、あの男の手中に落ちたと……？」
仲間の為に、自分を全てを賭した。全ては生涯仕えたいと願った主の名誉の為に。
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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか！私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (
レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね？現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます！(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料？とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて･･･ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません；； (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ！退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：大日戦 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時：2016年12月18日 22時
