第肆拾玖戦 加州清光 ページ2
「長谷部は前任に気に入られてたし、本人も忠誠を誓ってた……表向きはね」
「表向きは……ですか？」
「あの人が死んでから、俺たちに残された道は刀解か破壊だけ。仲間も戦友も兄弟も次々折られて……」
自分の無力と遣る瀬無さで、加州は強く拳を握り締めた。長門には背を向けており、表情は解らないが、肩が小刻みに震えているので、悔しさで泣いているのはわかった。
声を押さえて咽び泣いている加州と、彼らが置かれていた環境が過去の自分と重なり、長門は俯く。
何時からだろう。同胞が殺されても、次々と飛び立つ特攻機を見ても尚、自分でなくて良かったと思うようになったのは。
涙もとうに枯れ、悲しいという感情よりも明日を生き延びることに必死になり、他人を顧みる事が出来なくなったのは。
そして同時に、身を裂くような自己嫌悪に陥ったのは。
「……ねぇ。アンタはどうなの？見誤ったりしない確証あるの？」
「…………」
「やっぱり、アンタには分かんないよね」
すぐには、加州の問いに答えることが出来なかった。同情では無く、本当に彼らを想っているという証明が出来れば、その場しのぎにはなっただろう。
しかし長門は嘘を吐いてまで、自分の本心を騙そうとは思えなかった。
審神者が言葉に詰まっているのを見兼ねた加州は、もう用は無いと言わんばかりに踵を返そうとしたところ、長門は掠れた声を絞り出した。
「……加州さん、貴方の前の主は新撰組の沖田総司でしょう」
「だから、何？」
「私は彼と同じ武士道を心得た者。今すぐには、貴方の納得いく答えを私は出せないでしょう。……でも、前任と一緒にされては困ります」
謙虚さの滲む声音とは裏腹に、確かな覚悟を秘めた長門の黒い瞳は、鋭い光を湛え加州を見据えていた。その覚悟と武士道という言葉に、加州は驚きを隠せなかった。
まだその言葉を知る者が居た。それだけで少し、救われたような気がする。前任に折られたかつての同士も報われるような、そんな不思議な気分だった。
この審神者は嘘を吐かない。否、嘘を吐けない。
「加州さん。今の貴方に私を信用しろとは言いません。でも貴方の仲間と、前の主に報いる為、力を貸していただけませんか？」
新たな審神者の迷いの無い真っ直ぐな目に、加州は心を奪われていた。かつての主を彷彿とさせる凛とした佇まいに、黒い瞳の内に秘められた武士道。
かつて自分を顕現した主が常に湛えていた光と同じ、彼の許で共に戦い続けた相棒、戦友と同じ光。
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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか！私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (
レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね？現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます！(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料？とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて･･･ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません；； (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ！退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：大日戦 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時：2016年12月18日 22時
