第陸拾壱戦 小夜左文字 ページ14
鶴丸と共に大部屋の前の廊下で待っていると、数分も経たずに長谷部が出てきて、内側から襖を開けた。中の者へ話を通したので入れという合図である。
敷居を跨いだ瞬間、薄暗い大部屋の奥から飛んできた殺気で思わず身構えた。直に肌を刺すような鋭さを孕んでいる。無意識の内に背筋を流れる冷や汗に、長門は自分で驚いた。
「……怖いですね」
「きみから怖いなんて言葉を聞くとはな…驚きだ」
これ以上留まっていると、膝が笑って動けなくなる。そう思っていた時、鶴丸が長門の肩を掴んで引き寄せた。大丈夫だと落ち着いた声音と共に、赤子をあやすような手つきで背中を優しく叩かれる。少し恐怖心が薄れ、妙な安心感を覚えた。
「小夜、本体を収めろ。大丈夫だ、安心しろ。お前たちの敵ではない」
長谷部が大部屋の最奥、瘴気が蔓延っている所為で光の届かない場所に居る刀剣男士に声を掛ける。その声が届いた直後、身を刺すような殺気がぴたりと止む。
「小、夜……？」
「おぉ、小夜坊か……っ！生きていたんだな！」
怪訝な声音と共に小首を傾げる長門の隣で、鶴丸が嬉しそうな声を上げた。大部屋の奥で何かに戸惑う様な気配がしたが、鶴丸に小夜坊と呼ばれた小柄な刀剣男士が姿を現した。
「……長谷部、その人間は？」
「俺たちの新しい主だ。この本丸を引き継いだ審神者だ」
怪訝な表情で長門を見上げる小夜と呼ばれた刀剣男士は自身の本体は鞘に収めているが、警戒心剥き出しにして何時でも抜刀出来るように臨戦態勢を取っている。無理もないだろうと思いつつ、長門はどう説得しようか頭を悩ませていた。
「長門、こいつは小夜左文字。左文字派の短刀で、ちょっと訳アリでな……」
鶴丸が長門の隣に来ると、小夜の事情を耳打ちで教えてくれた。小夜左文字は最初の鶴丸や長谷部同様に、やはり怪我を負っており、真面な手入れもされていない。
抜刀していた本体は光を映えることが出来ないほど汚れている。しかし長門が手入れをしたいと言っても、一歩前に踏み出そうとすれば、小夜左文字は手を上げられると思って攻撃してくるだろう。
「……ここに審神者は要らない。帰って」
「まぁ待て、小夜坊。あの前任はもう居ない、長谷部を見てわかるだろう？俺もこの人に手入れしてもらった。粟田口の短刀たちも見つかった。全員ではないが生きているんだ。光坊も陸奥守も加州も……！」
「それでも……！江雪兄様や宗三兄様は居ない！」
「小夜！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 355人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか！私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (
レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね？現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます！(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料？とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて･･･ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません；； (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ！退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：大日戦 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時：2016年12月18日 22時
