第陸拾弐戦 再会 ページ15
鶴丸の説得にも応じず、本体の柄に手を掛ける小夜左文字を長谷部が制止する。再び長門へ、身を刺すような鋭い殺気が迸った。
殺されると本能的に分かっていても、長門は引き下がらなかった。寧ろこちらに酷く警戒心と敵意を見せる小夜に、長門は無意識に既視感を覚えていた。
「(あぁ、そうか……あの時の……)」
なぜ既視感を感じたのか、長門はすぐにわかった。一度だけ、かつて大英帝國海軍に居る腐れ縁を憎んだ事があった。
彼個人が悪いのではないのはわかっていた。お互い国の為に尽くす帝国軍人である以上、殺し合う事になっても文句は言えない。
わかっていた。わかっていたはずだった。いざ彼と対立し、次々と飛び立つ特攻機を見た時、帝国海軍の主力艦隊が壊滅したという知らせを受けた時、敵への身を焼くような嫌悪と憎悪が思考も感情も奪っていた。
ただ只管、同胞の敵を討ち、祖国を護る為だけに、敵を殺す為だけに刃を振るった。しかし見返りなど何もなかった。負けて己の首を絞める鎖だけが見えている。
きっと小夜も、人間への復讐を糧にしていたのだろう。復讐心を糧にしなければ、これ程ボロボロになってなお生き長らえるのは難しい。また強く叶えたい望みがある場合があれば、別の話だが。
「小夜左文字、落ち着け。……長谷部よ、珍しい客を連れて来たのだな」
大部屋の奥から発せられた声で、小夜が振り返る。長門の肩に手を置いていた鶴丸が、驚いたように目を見開いていた。
「まさか……三日月、なのか？」
「その声……間違いない。鶴丸だろう？……無事だったか」
長谷部と最奥の声の主の説得で引き下がった小夜が道を開けると、鶴丸に促された長門は大部屋の奥に通してもらう。三日月と呼ばれた声の主は、腕に子供を抱えたまま、新たな審神者を見上げた。
穏やかな声音同様、藍鉄の瞳には朗らかさを写した三日月模様の打ちのけが浮かんでおり、同性の長門であっても、美しいと思うほどの秀麗な顔立ちであった。
本来であれば、素直に美しいと口に出してしまうだろうが、そうはいかなかった。三日月の上半身には、意図して付けられたであろう傷が、無数に奔っていた。
「三日月……お前……」
「鶴丸、お主は行方不明になっていたと聞いたが」
「…………」
呆然と立ち竦む鶴丸に、三日月と呼ばれた青年は首を傾げた。どうやら前任は、三日月に鶴丸が行方不明になったと説明していた様で、無論、手入れ部屋から一歩も出られなかったのだから、誰も気付かない。
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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか！私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (
レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね？現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます！(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料？とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて･･･ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません；； (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ！退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：大日戦 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時：2016年12月18日 22時
