【刀剣乱舞】帝國ノ遣イ【男主】〜弐〜

第陸拾戦　離れ ページ13

「長谷部」

「……わかっている。付いて来てください」

鶴丸が視線で促すと、長谷部は頷いた。離れの入り口を開けると、長門を中に通す。一先ずは事情を説明して貰えると取って大丈夫であろう。
先に離れの中に入っていく長谷部の後ろに鶴丸が続く。長門は鶴丸に促され、薄暗く瘴気の篭った建物へと足を踏み入れた。
瘴気の篭った薄暗い離れの廊下は、所々踏むとギシギシと唸りを上げた。宛ら二条城の鴬張りの廊下である。

「長門、大丈夫か？」

「はい……。日本男児たる者、この程度で音を上げては、報復もへったくれもないですから」

「一先ずきみは忍耐や士道以前に報復から離れようか？」

時々立ち止まる長門を鶴丸が誘導する。しかし意地を張る所は相変わらず、彼は根性で突き進む。
薄暗く、瘴気が篭った中を歩き続けるのは難しい。
瘴気はいわば負の感情が霧の様に目視化された物で、ある意味呪いが狭い室内に散漫していると考えると分かり易い。

浄化された霊力に慣れている長門や山姥切は、突然汚染された霊力に触れると、慣れない身体が悲鳴を上げる。また錬度の低い山姥切は、長門から霊力を常に供給されて姿を保っている。
長門が瘴気に触れると身体が拒否反応を起こして本人の霊力が穢れないよう供給を絶ってしまうこともあるという。

長門は錬度の低い山姥切が瘴気に穢されないよう細心の注意を払いながら行動している。山姥切が瘴気を浴びすぎると長門からの霊力供給を拒んでしまう場合もあり、長門が瘴気を浴びて霊力を放出できなくなると山姥切の顕現すら危うくなる。

そんなデリケートな場所に居るのだが、政府で踏ん反り返っている汚職連中は所詮他人事だろう。
長門がやたらめったら政府相手に辛辣な態度を見せるのはその所為だが、ブラック本丸や引継ぎ直後の現場を理解できるのは、矢張り現場を幾度となく見てきた中間管理職のクダギツネ、役人だけである。

◆◇◆

母屋ほど大きくはないが、それなりに広い離れの中を長谷部に案内して貰いながら、鶴丸と共にやってきたのは最奥の大部屋の前である。
幽霊屋敷のようにボロボロの襖や障子は和紙が剥がれ、或いは破けており、美しい絵柄があしらわれていたのであろう襖は瘴気でくすんだ色に汚れていた。

「少しお待ち下さい」

長谷部が先に大部屋の中に入っていく。どうやら誰か居るらしい。ボロボロの襖の前で部屋の中の者へと「俺だ、入るぞ」と声を掛けてから敷居を跨いだ。

第陸拾壱戦　小夜左文字→←第伍拾玖戦　桜

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す