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ルナティックナイト―5 ページ15

しかし、だ。

同じように女が渡ったワイヤーを伝うのは危険行為過ぎる。

なにせ、向こうには既に拳銃と恐らくギターケースの中にライフルを所持しているのだ。

蜂の巣になって御陀仏してしまう。




かといって、1度マンションを降りてからまた昇るのは時間が掛かりすぎる。

移動中に逃げられるかも知れない。最悪、蜂の巣でまたもや御陀仏。




ー殺したい。



…自分の本性の奥底から何かが囁く。





カラン、カラン。


カラカラ、カラカラ、カラン



ー下駄が地面を蹴る音が屋上に響く。




コツッ



最後に、下駄はマンションの屋上に別れを告げるような音を立てる。

…オレも、女と同じように空へと跳び降りたのだ。


唯一女と違うところは、ロープを使わずに女が跳び移ったビルまで己の脚力でのみ到達しようとすることだ。



…高さは約15メートル以上、距離は10メートルくらいだろうか。



普通の人間ならまず、無理だ。
その前に、諦めるだろう。





ビュウ、と風が吹き、体を撫でる。



だんだんと、女の驚いた顔も近くなる。


ガンッ、と左足が地面に着くが、勢いは殺しきれず、前方へと転がりそうになり、履いていた下駄の片足が吹き飛んだ。



バシャン、バシャン、と水飛沫が上がり、しばらく滑走してようやく勢いがおさまった。



昨日までの大雨の水がまだ乾ききれていなかったようで、このビルには水が張っており、幻想的な雰囲気だった。




チラリ、と女を見ると、ポカンと口が開かれていて、目は見開いていた。


まぁ、人間業を軽々と超えたものを目の前で見せられたら誰でも驚く。



「…ほんっと、狂気的過ぎるぜ。
ったく、一体この街の治安はどうなってんだよ」

ほとんど一人言のようにつぶやく。



「まぁ、良い。
オレが困るのはな、目の前で誰かが殺されるのを見たくないんだよ」







ー殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい。


ー殺せ!






「…うん。見たくないな。
誰かが殺されたのを目にしたら、オレも誰かを殺してしまいたくなるから」





「意外と、自分の獣の部分を隠すのは大変なんだぜ?
でも、オレは人を殺したくない。
オレは人間として生きて、人間として死にたいんだ。
自らの欲望なんかに負けてられるかっての」



いや、あるいはこれも一種の欲望だな。

本当は人間じゃないのに、人間の振りをする。


ーそれでもオレは、他人を殺したらいけない。

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作者名:paranoia | 作成日時:2018年5月13日 21時

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