二 ページ4
あれから1週間が経った
いや、正しくは1週間以上だ
数日を経てここにいるのだから
南極調査隊の雪上車に乗って進む
車中、K2が語る
｢進めば進むほど、人類の文明から遠ざかっていく
ここは本当に、手付かずの自然しかない、まさに神の聖域だ」
独り言のように続ける
「 かつて、エベレストを登ったマロリーたちも、ここまで不安じゃなかっただろうな｣
不安……か
「何言ってんの、K2っち」
「K2っち？まあ、好きなように呼んでくれ」
「ワクワクすんじゃん、ワクワク、もうちっとテンション上げていこ？」
「そうだな、僕も年齢的にこれが最後のチャンスになる、最後のチャレンジで是非この山を踏破したいよ」
「私も最後のつもりで迎えます」
「出来る出来る、だいじょぶだって」
勇がおどおどとした声で言う
「若干、ホームシックになってきました」
真っ白すぎたらしい
「勇さん、ちょっと早いんじゃないの」
俺は不安でもないし、ワクワクもしていない
もちろんホームシックにもなっていない
ただ、兄に会いたい
それだけで頭の中がいっぱいだった
白銀の世界
兄はどう思っていたのだろうか
みんながワイワイしているが俺は混ざる気にはなれなかった
山の麓に着く
ここからは犬ゾリだ
嫌な予感がする
俺の嫌な予感はよく当たる
兄が行くと決めてからずっと嫌な予感がしていた
通信が途切れたという連絡が来るまで
吐き気と目眩に襲われて
兄に何か起こるのかと怖くてたまらなかった
すると3000メートル付近で犬たちが吠える
唸ったり怖がったりしている
やっぱり俺の嫌な予感は当たる
「おい、どうしたんだ、動け！」
「コネシマ？」
「俺の犬はそんな名前じゃ無いぞ」
ブチリ
「コネシマ！！」
コージーが叫ぶ
工程が1000メートル伸びるだけ
続く
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作者名：moon | 作成日時：2019年6月2日 12時
