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『ごめん！
今タクシーん中』
智くんからの返事が来たのはスーパーに着いた頃で、その時は何とも思わずに買い物を済ませてマンションに戻ると、智くんの靴があった。
リビングにその姿はなく、
「智くん？」
呼んでも返事がない。
彼の作品が置いてある部屋のドアが開いていて、覗くとイーゼルの前に座っている智くんの後ろ姿があった。
「智くん、お帰りなさい。」
「あ・・・ただいま。」
振り向いた智くんは筆を持っていた。
「欲しかった色が手に入ったんだ。
少し描いていい？」
もう描いているじゃない。
そういえば智くんが絵を描いているところを見たことないな。
「見ててもいい？」
「ん、いーよ。」
もう振り向きもせずに筆を動かしている。
初めて見るその後ろ姿に時間を忘れた。
キャンバスには女性の絵。
ふたりの呼吸の音だけが聞こえるような静かな時間。
フローリングに直に座ってたから、足が痛くなって音をたてないように部屋を出る。
時間を確かめると、１時間ぐらい見ていたことに驚いた。
ひとりのリビングは広かった。
智くんも同じ家にいるのに、今までみたいに智くんの帰りを待っているような感覚。
それが何か知るのが怖くて、時間は早かったけどエプロンをつけて料理を始めた。
日が長くてまだ明るいから時計さえ見なければ夕方だと気がつかないこともある、とは思う。
キッチンの後片付けまで終わらせて、あとはすぐ食べられるってそんな時間になっても智くんは部屋から出てこない。
「智くん？」
声をかけても返事がなくて、彼は今自分の世界に入り込んでしまったんだって気づいた。
何やってるんだろう、私・・・。
ここに自分の居場所はないって言われたみたいな疎外感。
「帰るね・・・。」
もう一度後ろ姿に声をかけたけど、返事はなかった。
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作者名：Fg | 作成日時：2014年7月10日 10時
