Toxic Boy . (ページ10)

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(T side)

「辰哉くん、」
「ん、…」

あの子と康二が、店から出ていってから数分後。
''そろそろ…ね？''とわざとらしく俺の太ももをなでた彼女に
はいはい、と返事をして俺達も店を出た。

ホテル行こーよ、と声をかけたのに
ここでキスしてとせびるので
人通りのない路地裏で口付ける。

(…2人で帰って、あっちも盛り上がってんのかなぁ)

友達同士とはいえ、康二の気持ちはわかりやすい。
きっとあの子は鈍感だから気付いて居ないだろうけど
庇って酒を飲む姿も
職場であの子を見つめる目も、
あの子の名前を呼ぶ度に少し耳が赤くなるのも
康二らしくて、面白い。

そんな想いを寄せられてるとも知らずに
酔ってる男を介抱しちゃうなんて、危なっかしいよねぇ。

でももし…それで康二の女になったとしたら。

(…なぁんかそれは、ちょっとつまんなくない？)

あの時香った石鹸の匂い。
今日の勤務中、隣に座った時も変わらぬ香りだった。
……そんなあの子を、もし抱きしめたら？

俺のキスに必死に答える目の前の女を薄目で見ながら
これが彼女だったらどんな反応するのかな、と考える。

我ながらクズだよね、ほんと。

首に腕が回って、より深くなる口付け。
そんな時に目の前の通りで人影が止まった気がして
やばいかなぁと、視線だけその場へ移したとき。

(あは、なんちゅー顔してんのよ)

顔を赤くして、無防備な顔。
さっきから俺の頭の中をいっぱいにしてる子。
へぇ、そんなかわいい顔もするんだぁ。

わざと逸らさずに、じっと見つめると
一瞬焦った様な顔をして視線を戻した。
少しフラついてるくせに、必死に早歩きしていくもんだから
どこか危なっかしいなあ、あの子って。

「ん……辰哉、くん？」
「あーごめんね、気分変わっちゃった。今日やっぱパスね」
「へ？」
「気をつけて帰ってねえ」

多めにタクシー代だけ渡して、その場を後にする。
ちょっと！と後ろから呼び止める声に答える代わりに
振り向かないまま手をふった。

少し小走りで彼女が行った先を追いかけると
無防備で、さみしそうな小さい背中が見えて。
気付けばその手を握って
反動で揺れた身体を抱きしめていた。

＿＿俺さっきからAちゃんの事ばっか考えてたよ。

ほんとだよ、これは嘘じゃない。

わざとらしい口説き文句を告げて
不意打ちでキスをした後。

そう告げるとさっきよりまんまるに開いた瞳。
やっぱかわいいな、と思いながら
その柔らかくて甘い唇に、またキスをした。