《１５３》 ページ8
「…うまかった」
手渡したお菓子を食べ終えた時、男の子はぽつりと小さく呟いた。
しっかりとその声が耳に届いていた私はその言葉にみるみる頬を緩め、次はこれをとまた一つ差し出す。
今度は素直に礼を告げ受け取る男の子は、また口に運び笑みを漏らし、私はそんな男の子の笑みが嬉しくて、終始頬を緩めその姿を見つめていた。
「おまえは、うまいもんを色々知ってるんだな」
一通りのお菓子を食べ終えた時、男の子は私を見てそう言う。
きょとんと首を傾げる私に続けて一言、羨ましいと呟くその顔はどこか寂しそうだった。
「…でも、わたし、きのうあかとくろのおにーちゃんがくれたくっきーのほうがすきだよ？」
しゃがんでいた私は不意に立ち上がり、男の子の前に移動するなり広げていた足の間に再び腰を下ろす。
自身の背後にいる男の子へ身を預けながら顔を上げると、男の子は私の行動に目を丸くした後、少し照れ臭そうに目を逸らしながら頬をを掻いていた。
暫しの沈黙。私は体を男の子に預け続け、目を閉じながら微かに届く心拍音を感じる。
男の子もそれを拒む様子は無く、私の体を抱えるように腕を回していた。
「…なぁ、おまえは今いる場所がどこかわかってるのか？」
「いまいるばしょ？」
言っている意味が理解出来ず、その言葉にまた上げた顔は自然と傾けられる。
そんな私を見て男の子はまた寂しそうに眉を下げてしまうから、私は何か良くない所なのかと自然と察してしまった。
「……ここはスラム街って言ってな…金がないからその辺の奴から取ったり、売ってるもん盗んだり…」
控えめに紡がれる言葉はどこか悲しげで、その声音から私は男の子もそういった行為に及んだ事があるということが何と無く想像できた。
同時に兄から近づくなと言われていた場所もここ、スラム街のことだったと思い出しながらも、私は男の子の手を取る。
大丈夫と告げる私に男の子は何のことかと頭を悩ませているけれど、握っていた手はしっかりと私の手を握り返していた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年9月21日 21時
