《１３８》 ページ42
このまま首を握りつぶして殺してやろうと思っていた。
こんな女達が死んだところで始末する手間と跳ね馬への説明が面倒なだけで、後片付け自体は容易だろう。
なのに私の手はその場にいた女達のものではない違う手に掴まれたことによって阻まれる。
「おい、落ち着け」
「何やってんだテメェは！」
顔を上げればそこにはどちらも甲乙つけ難いほどに大切で大好きな人達の姿があった。
冷静な顔でこの状況を把握しているボスと、任務から帰って来て駆けつけてくれたのだろうか、兄は少し呼吸が乱れている。
離せと、ボスが私の手を誘導したことにより自然と女は解放される。
その首にはくっきりと私の手跡が残っていて、女は首元を抑えながら苦しさから顔を歪め呼吸を整えていた。
「ボス…お兄ちゃん…今の、どこから…」
「あぁ？！見りゃわかんだろうが、今帰って来たとこだぁ！」
兄は苛立ちを声に乗せ、少し早口でそう述べる。
ボスは口を開かないけれど、顔を見れば微かに怒りをその表情に乗せていることからことの成り行きの多少は把握しているんだろうことが伺えた。
悔しいというよりも、悲しいが勝る。
こんな女達に好き勝手言わせてしまったことも、ボスへの誹謗を聞かせてしまったことも、根本を辿れば私の不甲斐なさ故。
「ぼす、ごめんなさ…」
「てめぇが詫びることは何もねぇだろうが」
気にしなくていい。なんて言って少し穏やかな表情で私の頭を撫でてくれたボスも、女達を見据えればたちまち顔つきが変わった。
私の体をぐっと自分に抱き寄せ、その隣に少し怪訝そうな顔でボスを見る兄も立てば、女達はバツの悪そうな顔で一歩後退り。
「跳ね馬はもう呼んである。契約解除だ」
「せいぜい跳ね馬のところで再雇用してもらえるよう、テメェらのいう女とやらでも使ってみりゃいいんじゃねぇかあ？」
嘲笑うような口振りで告げられた目の前の女達は、顔を赤く染め上げる。
行くぞ、というボスの声を皮切りに踵を返し部屋を出ていけば、タイミングよく入れ違いに駆けつけた跳ね馬は、目配せでごめんと何度も私に頭を下げていた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
