《１２９》 ページ33
「あの、…私ってボスとどこかで会ったことありますか…？」
「…あ？何言ってんだカス」
怪訝そうに眉を寄せて私を見据えるボスは、呆れた声でそう言った。
書類を受け取った時に何処か懐かしい感じがしたから聞いてみたけれどどうやら気のせいだったようだ。
一瞬眉が動いたのもきっと私がバカな事を言ったせいだろう。
失言に詫びを入れ早々に片付けを済ませ、部屋を後にしようと扉に手をかけた所でボスに止められた。
「ボス…？どうかしましたか？」
呼び止められたものの、そのまま数分何も言わないでただ立っているだけ。
声をかければハッとしたように私の顔を見据え、発言に躊躇いを感じている様子を見せるボスが珍しく、私は何かあったのかとではとボスが話すのを静かに待った。
そこからまた少しして、ようやくボスが口を開けばひとつの疑問を投げかけてきた。
「…いや、特にこれといっちゃねぇが…何故そう思った」
「な、何故…？とは…」
「会ったことあるかと聞いてきただろ。どいうことだ」
あぁ、なるほど。話の流れに理解出来れば答えは簡単だ。
懐かしさを感じた事を伝えれば、その答えに満足したのか納得出来たのか、そうかと呟き少し満足げな笑みを漏らすボス。
その姿に今度は私がきょとんとすれば、ボスはその姿に気付いたようで不意に頭を撫でられる。
「気にすんじゃねぇ。…今日はもう休め、明日また頼んだぞ」
「う……明日こそボスも手伝ってくださいね…」
ボスの親指が背面のデスクを指せば、途端に疲れが襲ってくるのを感じた。
肩を垂らしながら告げる私をくつくつと笑い、さあな、なんて言ってとぼける姿に、何処か無邪気さを感じた。
それもそうか。ボスは兄の2つ上と言っても、8年もの間眠りについていたのだから、中身はまだ何処か当時の時のままの部分もあるんだろう。
大人な見た目に反して無邪気な面を見たギャップが少し愛らしい。なんて言ったら怒られるから心のうちに留めておく。
「ふふっ…おやすみなさい、ボス」
「あぁ」
兄からは気軽に抱きついたりするなと言い聞かされてはいるけれど、挨拶ぐらいは許されるだろう。
その腕に収まり額へ口付けを落とされれば、私はその場を後にする。
ボスは私の姿が見えなくなるまで、部屋の外で見送ってくれた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
