《１１５》 ページ19
店を出る時、兄はあの店主に何か話しかけられていた。
どうしたのかと聞いても何でもないと返されてしまえば、普段は詰め寄ってでも話させるというのに、今日に限ってはなぜか聞けなかった。
少し複雑な心境故にどこか見て回ろうなんて気分にはなれず、私は帰ろうと兄に声をかける。
折角なのにと兄は言っていたけれど、私が首を横に振ればそれ以上何か言われることはなかった。
「少しだけ、歩かねぇかぁ？」
ちょいちょいと、肩をつつかれ指さされた先にあるのは海岸沿い。
特に断る理由もなく、むしろ気分転換になるかと思い私は今度は首を縦に振る。
「ほら、気ぃつけろよ」
「…お兄ちゃん、私これぐらいじゃ転ばないよ？」
少しの段差でも自然と出される手は、妹への気遣いだろうか。
未だに子供扱いされることに少しむくれながらも、結局その手を取ってしまうのは癖でもありつつ、惚れた弱みというものでもある。
何やかんやで屁理屈を言いながらもありがとうと呟けば、兄が少し頬を緩めてはにかむ。
レストラン後の兄の空気に少し緊張していたからこそ、その笑顔に少しホッとした自分もいた。
「気持ちいいね」
「海なんざヴァリアーにいたら来る機会ねぇしなぁ…」
「え！そうなの！？」
以前日本に行った時に兄とボスとベルと一緒に外を歩いたことを思い出せば、素直に残念だと思った。
周りからの視線が気になりながらも、商店街を散策する時間はとても楽しかったからこそ、いつかまたみんなで出かけたいと思っていた。
それぞれの四季に合わせてどこか行けるかななんて夢を見ていたからこその、兄の言葉にショックを受ける。
思わず口を開けて眉を垂らしていれば、兄はまた私を見て笑った。
「そんな落ち込んでんじゃねぇ。いつだって俺が連れて来てやっから」
「……みんなも一緒に？」
「あ”ー…それは……約束出来かねるなぁ…」
頭を撫でていた手は私の言葉を聞くなりピクリと動きを止める。
なんとも言えない苦い顔をしている兄は気まずそうに目線を逸らし頬を掻いていた。
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作者名：まいたけ | 作成日時：2023年8月3日 14時
