『...それがお返しですか?』 ページ28
目の前にある宇髄さんの瞳が、僅かに揺れた気がした。
けれどそれも一瞬で、まるで隠す様に私の頭をくしゃっと撫でる。
「あのなぁ、今日は俺がお前にお返しする日なんだぞ?なのになんで俺が貰う側になってんだ」
『別に何か渡したつもりはないんですけど』
折角整えて来た髪が台無しだ。
少し恨みを込めた目で宇髄さんを見ながら、乱れた髪を手ぐしで直す。
「...でもまぁ、記憶の上書きも派手に楽しそうだ」
ニッと笑う宇髄さんからは、もう先程の様な悲しい気配は感じない。
それが嬉しくて、私も釣られるように小さく微笑んだ。
「さて、暗くて地味な話はこれで終いな。本当は最後に渡そうと思ってたんだが、プラスアルファ貰っちまったから今渡す」
そう言った宇髄さんは立ち上がり、個室のドアに向かう。
そこを開けると外には案内してくれた人とは別のウエイターさんが少し大きめの額縁を持って待機していた。
宇髄さんはその額縁を受け取ると、再び私の隣に腰を下ろす。
『...それがお返しですか?』
「そ。俺の絵が好きだって言ってくれたお前に、この世に一つだけのプレゼントだ」
くるりと、宇髄さんが額縁をひっくり返して中の絵を私に見せた。
そこに描かれている絵に、私は思わず息を飲んだ。
微かに雲掛かった夜空に浮かぶ満月の前を、一人の少女が横切っている。
臙脂色のマフラーを巻いて、腰に備えた刀に手を添えて、紫の髪を翻して。
『...鬼殺隊だった頃の私.....』
この絵には見覚えがあった。
宇髄さんに引き取られて初めて迎えた正月の大掃除の際、宇髄さんのアトリエで見つけたものと殆ど同じだった。
あれからずっと机の引き出しにとってあるが、ほぼ完成に近かったそれよりも遥かに幻想的で美しい。
「俺様があの時見ていないとでも思ったか?ポケットにこっそり入れる所までちゃーんと見てたぜ。随分嬉しそうにしてたよな」
『正直知られていた事に関しては不満ですが...だからこの絵を?』
「ずーっと描いては没にしてを繰り返して、やっと満足のいく仕上がりになったのがその絵だ。没物を渡すより完成した作品を見てもらいたいのは芸術家なら当然だろ?」
あの頃の私は、こんな風に見えていたのだろうか。
こんなにも美しく、強かに。
そう思うと、絵の知識のない私でも心から嬉しさが湧き上がってきた。
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美緒ちゃん(プロフ) - 楽しかったぁぁぁぁぁあ!ありがとうございましたぁぁぁぁぁあ! (2022年7月23日 14時) (レス) @page39 id: 4f2d722dc2 (このIDを非表示/違反報告)
イリア(プロフ) - りとさん» 分かります!あれですね、人の不幸は蜜の味ってやつですね(((特にすれ違いとかもう...いいぞもっとやれ!ってなりますね!((クズ (2022年2月5日 12時) (レス) id: f3367b760e (このIDを非表示/違反報告)
りと - 自分シリアス大好物なのでw(?)夢主ちゃんと宇髄さんが喧嘩するところは毎回にやにやしながら読んでますww(((最低 (2022年1月3日 2時) (レス) @page9 id: cb2121edf2 (このIDを非表示/違反報告)
イリア(プロフ) - りとさん» いつも読んでいただきありがとうございます!大人な余裕を持った宇髄さんカッコイイですよね...子供っぽい時とのギャップが...!!確かに最近喧嘩してませんもんね、させましょう!(?) (2022年1月1日 21時) (レス) id: f3367b760e (このIDを非表示/違反報告)
りと - 宇髄さん余裕ぶってる態度とってんのいいな…かっこいい…。いつもムフフしながら(?)読ませてもらってます。応援してます!!無理せず頑張ってください!!宇髄さんと夢主ちゃん軽く喧嘩してほしいですw((((え? (2021年12月26日 2時) (レス) @page3 id: cb2121edf2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イリア | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.pnp/sakuramoti
作成日時:2021年12月18日 20時