【tkrv】自分の美の価値観が世の中と全然違う件2

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——だが、結局それはただの早とちりだった。

彼女は嘘偽りなく竜胆や九井らを肯定していた。マイキーの言葉の他、九井とはこの会社に入る前に出会い、その縁で就活に困っていた彼女を拾ったことや、ついこの間までただの大学生だったことが、渡された調査シートにしっかりと書かれていた。梵天が諜報員調査のために雇っている調査班の調べたものだから、間違いのない情報だった。
彼女の肋骨が折れていた理由も聞いた。
九井を悪く言った社員に言い返し、その末に負った怪我なのだという。捨てる直前でよかったのかはわかんねえけど、と九井がその時のカメラの映像も見せてくれた。

…「本物」だった。何もかも。
屈託のない笑顔も、明るい声も、握った手の感触も、こちらを見つめる眼差しも、全部。

でもそれじゃあ、オレは初めて現れた「自分を認めてくれる人間」を、自分から手放したことになる。

一般人として普通に育ってきた彼女が、いきなり初対面の男に詰られ、拳銃を突きつけられた。さぞ、恐ろしかったろう。もう顔を見たくなくなる程の最悪な印象を植え付けてしまった。
…初めて向けてもらえたあの温かさは、あの時交わした短い時間が最初で最後となるかもしれない。


ソファーに寝かされたAをぼんやり見つめながら、蘭は自分の内臓がどんどん冷たくなるような感覚を覚えた。取り返しのつかないことしてしまった時の、血の気が引くようなあの焦燥感だった。
その時、蘭に向かって不意に今まで黙っていた竜胆が口を開いた。

「…兄ちゃん」
「…なに」
「…兄ちゃんがさ、オレや兄ちゃん自身が生きやすいように気イ張ってたこと、気付いてた」
「…」
「そのせいで、素直に人の気持ちが受け取れなくなったことも」
「…」
「オレは兄ちゃんには、何だかんだ優しくしてもらえてたから、あの子のこともすんなり信じられたんだと思う」
「…」
「…ごめんな、兄ちゃん。オレのせいで」
「…んで、お前が謝ンだよ…」

竜胆の言葉に、くしゃりと蘭は顔を顰めた。黙り込んだまま、真っ直ぐAを見つめている竜胆の顔は、申し訳なさそうな顔をしていた。

「あの子にも迷惑掛けちゃったし」
「…」
「ホント、生きるの下手くそだよな、オレら」
「…そうだな」

そんな会話をポツポツと交わしていると、向かいのソファーの肘掛けに座っていたマイキーが「あ、起きた」と声を上げた。蘭はそれにビクリとして、Aに目を向ける。

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