梶井 基次郎【兄として】 ページ26
珈琲とお茶菓子をふたつずつ、お盆に乗せて運ぶ。
向かう先はと言うと、カチカチと金属同士がぶつかり合う音と時計の秒針だけが響く、火薬臭い部屋。
お目当ての部屋の扉を開け、お目当ての人物の視界に入るように珈琲を置く。
「…そろそろ休憩しなさいな」
そう声を掛けると、彼はゴーグルの中の目を細め、歯を見せて笑う。
「A兄さんに珈琲を淹れて貰えるとはね!これはこれは!」
「感謝は嬉しいけど、あんまり根詰めすぎると体に良くないよ」
「忠告痛み入るねぇ」
そう呑気に笑いながら珈琲を啜る俺の弟_基次郎。
兄として、ここまで熱中しているなら手放しに褒めてやるべきだと思うけれど、
もうあまり若くないんだから無理はしないで欲しいとも思う。
カーテンと窓を開け、部屋に舞う火薬の粉達を外に追い出す。
「…火薬を使うんだから、たまには換気を」
「あぁ、ああ」
お茶菓子を突っつきながら生返事を寄越す基次郎。
むぐむぐと咀嚼してるのを見るに、気に入ってくれたようだ。
まだまだ可愛い所もあるもんだ、と薄く微笑みながら彼の近くに戻る。
机の上には、出来たての檸檬型爆弾。
「作る度に綺麗になっていくなあ」
そう 何と無しに爆弾を持ち上げようとしたとき。
ばし、
と 音がすると、俺の手が爆弾に届く前に止まる。
見れば基次郎が俺の手首を掴んでいた。
「…………基次郎?」
「…やー、すまないね兄さん。ちょっと強く握りすぎたねえ」
乾いた笑いと共に、基次郎は爆弾をそっと回収した。
「兄さんは触らない方がいい。……傷モノになったら偉い事だからね!うはは!」
__なんて笑ってはいるけれど、怒ってるのだろうか。
俺の手首にかかる力が強くなっていく。
「基次郎、俺はもう30歳だよ」
「いーや、関係ないね」
……いつもそうだ。
弟は、基次郎は。
俺が躓きそうな物を、俺の前から全て取り払っていく。
「A兄さんが傷付いたら、僕はどうなるか知らないなあ」
手首から手が離れると、次は壊れ物を扱うように頬に触れられる。
……この手に触れられると、強く断れないのが俺の弱さかもしれない。
弟が縋るなら、願うなら。
それに応えてやりたいと思う。
" 紡錘形の果実よりも美しく、愛おしい我がお兄様 "
" どうか煙に巻かれて消えませんように "
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魅ぃちゃと詩ぃちゃさんリクエストありがとうございました!
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胡桃バター(プロフ) - りんごあめさん» リクエストありがとうございます!執筆までしばらくお待ちください (11月10日 1時) (レス) id: 55a2e79d32 (このIDを非表示/違反報告)
りんごあめ - 森さんとのお買い物デートが読みたいです! (11月3日 18時) (レス) id: bd46442a68 (このIDを非表示/違反報告)
マーガリン - ありがとうございます!! (2023年4月4日 8時) (レス) id: 7ba1c946a0 (このIDを非表示/違反報告)
胡桃バター(プロフ) - マーガリンさん» リクエストありがとうございます!慣れないキャラではありますが、精一杯書かせていただきますので、しばらくお待ちください。 (2023年4月3日 22時) (レス) id: ed4c5148d7 (このIDを非表示/違反報告)
マーガリン - 小栗さんのヤンデレってできますか? (2023年4月1日 8時) (レス) @page33 id: 7ba1c946a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡桃バター | 作成日時:2016年6月19日 22時