スランプ ページ1
「あーもう!」
和川学園中等部の北校舎。普段誰も入ることのない四階学習室で、桜乃は叫んだ。書き途中の原稿用紙に八つ当たりするように、それをくしゃくしゃに丸めて投げ捨てる。
「どうしたらいいのよ・・・・!」
文芸部の副部長。それなのに小説が書けないなんて・・・・! イライラする桜乃の様子を、部長のカレンが静かに見ていた。そして―――
「桜乃、どうしたの? もしかして、スランプ?」
正面から図星をつかれて、桜乃がシュンとなる。彼女はいつもまっとうなことを言う。ただ、あまりにも堂々とし過ぎて、言われた方は倍にも傷ついてしまう。
「そうなの。実は―――」
桜乃は段々と話し始めた。それを、カレンは真剣に聞いてくれた。そして、話し終わると、納得したかのように腕を組んで大袈裟にうなずいた。
「つまり、桜乃は、最高のラストが思い浮かばない・・・・と?」
桜乃が力なくうなずくと、カレンが言った。
「いい? 小説のラストは、とっても大事なの。それが思い浮かばないなら、最初から書き直したほうがいいわ。ま、才能がないなら何度やっても無駄だけどね」
カレンの嫌味にムッとするものの、確かにそうだと桜乃は思った。超お金持ちのお嬢様であるカレンは、部長として偉そうにしているだけではなくて、小説を書く才能もある。
それに比べて桜乃はどうだ? コンクールに応募しても、結果はパッとせず、たいして面白い小説も作れない。イコール才能がないのでは?
でも、カレンがこの文芸部を作った時、確かに言ってたのだ。「桜乃には才能がある」と。なら今のは、桜乃のやる気をあおるための作戦なのかもしれない。そう思うと、やる気が出てきて、また新しく原稿用紙を出した。
ちらりと横を見ると、ギャグマンガを読んでいる立花奏斗がいる。奏斗は真面目な顔でギャグマンガを読んでは、たまにノートにメモを取っている。はたから見れば、おかしな光景だ。
その横では、有栖川結羽が桜乃と同様原稿用紙を相手に小説を書いていた。こんな名前をしているが、結羽は立派な男子なのだ。
「か、書けた――!」
それから一時間近くたって、桜乃は小説を書き終えることができた。ついさっきまであんなにも悩んでいたラストも、バッチリだ。原稿用紙をまとめて、カレンのもとに持っていく。彼女の許可が下りなければ、失格だ。
じっくり読んでから、カレンは言った。
「オチが緩い。ここはギャグ文芸部よ。忘れた?」
続く お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:北白川彩葉 | 作成日時:2019年4月28日 8時