私は霊感があるだけのモブだと思うんですけど…？

36*与謝野晶子 ページ37

「おや、目が覚めたのかい？」


『は、はい！ おかげさま、です』



ニッとつり上がる女の人の紅い唇に声が上擦る。


コツコツとヒールを鳴らしてこっちに近づくたびに体が自然後ろに反れる。



「フフ、そんなに怯えなくても取って食いはしないよ。

　アタシの治療を受けたいなら話は別だけどねェ？」


『い、いえ結構です！！

　ほ、ホラこの通り元気で…ヴッ、』



治療の一言にさっきまでの谷崎さんの悲鳴が再生される。

ダメだ、絶対にダメなやつだ…


脳内に鳴る警報に腕をブンブン振ってみせれば、まぁ案の定お腹にまた鈍い痛みが走り踞った。

痛みに涙が浮かび擦っていると上からプッと吹き出した笑い声が響く。



「あんたねぇ、目が覚めたからって急に動いちゃ駄目に決まってるだろ？」


『は、はい…すみません、いたた』


「フフ、アタシは与謝野晶子。

　よろしくねA」


『よ、よろしく、です』



そう言って差し出される手にキョトンとし、
与謝野さんの顔を交互に見て私も手を出した。

よく見れば凄く綺麗な顔してる美人さんだ。


所々に飛び散ってる赤い飛沫を見ないフリすればだけど。


段々と冴えてきた頭にフウッと息を吐いた。



『あの、私どうしてこんな所に…』


「覚えてないのかい？

　まあ気絶してたし無理もないだろうね。


　その辺に関しては国木田辺りから説明があるだろうから賢治、この子を事務所の方に連れてってやんな」


「はーい分かりました！」


『(事務所？)』



ここは何処かの会社なんだろうか？


けどこの部屋はどう見ても病院のような治療室。

病院とは程遠い悲鳴は聞こえてたけど…



『(まさか変な研究所とかじゃ…)』


「じゃあAさん案内しますね」


『え、うわぁッ！』



突如グイッと腕を引っ張られ、よろめいた体は止まらずボフンッと賢治君の胸にダイブした。

その瞬間お！ なんて声を上げる与謝野さんに慌てて体を起こす。



『ご、ごめんね賢治君、大丈夫？』


「問題ないです、さぁ行きましょう！」


『え、このまま！？』



さっき掴んだ手はそのまま、つまりはその…



「何か問題でも？」


『いえ、その、何でもない、よ…』



コテンと可愛らしく首をかしげる彼に、意識する分とても気まずい。


年下とはいえ男の子と手を繋ぐのは、その、



『(…慣れないなぁこういうの)』



チラリと助けを求めるように与謝野さんを見ても、

彼女は綺麗な顔に弧を描くだけだった。



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