8・懐かしさ/変わったこと ページ9
朝から降り続く鬱陶しい雨。気温はいつもより低く、肌寒い。
今日の私の気分は──最高だった。
「あらあらもうとっくに首を伐られたかと思ってたのに、未だ生きてやがったのね」
「死ね」
「お前が死ね。人虎捕獲、失敗したんですって?たかが探偵屋に無様に敗北……そのまま虎に頭喰い千切られれば良かったのに」
「お前の頭を羅生門で喰い千切ってやろうか」
「私が死んだら銀が哀しむわシスコン」
「妹が低俗な輩に惑わされていたらその輩を排除するのが兄の義務だ」
「誰が低俗な輩だ。東京湾に沈めんぞ」
横浜に聳え立つ本部ビルの廊下にて、見馴れた後ろ姿を見つけた私は意気揚々と話し掛けた。
先刻、首領から芥川と樋口が人虎捕獲に失敗したと連絡があったのだ。私が朝から上機嫌だったのはその為である。
認めたくはないけど、芥川は仮にも遊撃隊を束ねる権限を与えられている。シュレッダーの刃にくっついた紙屑並にうざったくて鬱陶しい奴でも、一応は優秀なのだ。アレ本当に邪魔くさい。死ね紙屑。
しかしそんな芥川が珍しく任務失敗ときた。
これはもう、揶揄え、冷やかせと神が私に囁いているに違いない。
「ハッ、ざまあみやがれコノヤロー」
心からの嘲りを込めて鼻で笑う。しかしてっきり罵詈雑言の類いが返ってくると思っていた私は、何も云わない芥川に拍子抜けした。
……まさか熱でも出した?
「太宰さんが探偵社にいた」
私の勘繰りが頭が逝かれたんじゃないかと云う処まで達した時、漸く芥川が口を開いた。唐突に、予想を遥かに通り越した内容に頭が真っ白になった。
太宰さんが、探偵社に──?
脳裏に浮かぶのは、一昨日の太宰さんの姿。
昔と変わらないとは思えど、彼が探偵社に属しているとは頭を掠めもしなかった。だって、あの太宰さんが。
冗談でしょう、と云おうとした言葉が、芥川の表情を見て喉元で泡のように消えた。微かに憂いを帯びた表情に、掛ける言葉を見失う。
なんだが、懐かしいものを見ている気がする。
前にも一度見た表情だ。──いつだったか?ああ、そうだ。太宰さんがマフィアから消えた時だ。
舵の取手を失った舟。鞘を失った刀剣。……或いは親を喪った幼子。そのどれでもなくて、どれでもあるような。
しっくりくる形容詞は浮かばないけれど、確かに芥川はこんな顔をしていた気がする。妙に懐かしさを覚えて、場違いにも笑いが零れた。
「……何が可笑しい」
「や、あんたの辛気面が」
「……殺す」
ただ、変わらないなと。
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まかろん - いつになったら続きだすんですか? (2022年3月3日 18時) (レス) @page38 id: e90d3fb299 (このIDを非表示/違反報告)
村越 - 続き……続きが読みたいです!待ってます!! (2018年12月31日 1時) (レス) id: 221d19ed47 (このIDを非表示/違反報告)
なをりん - 茉莉(まつり)さん» ありがとうございます!私の書く文章から、そう云った感想を頂けるのは正に感無量です。伝えたいことをちゃんと拾って下さっているんだな、と思います。滞り気味ですが……どうか最後まで御贔屓ください! (2018年7月24日 23時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
茉莉(まつり) - 何か無償に泣ける…更新がんばってください、楽しみにしてます…! (2018年7月21日 10時) (レス) id: 5299f2ee2b (このIDを非表示/違反報告)
なをりん - デミオムさん» コメントありがとうございます!私は今年受験生なのですが、そんな温かいコメントにいつも遣る気を分けて頂いています!この作品もあと少しで完結です!最後まで御贔屓ください! (2018年5月21日 21時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なをりん | 作成日時:2017年7月12日 18時