弱 者 情 事。【芥川龍之介】

１９･着信十八件/相手、樋口一葉 ページ21

──嘘でしょう。




時刻は早朝の五時。この季節は既に空は明るい。自宅の寝台に腰掛け、携帯端末を開いた私は思わず硬直した。





着信履歴、樋口一葉十八件。






しかも一番初めの着信は深夜の一時。別に夜中に呼び出されるのは珍しい事では無いのだが、昨夜の私は思っている以上に質の良い睡眠を取っていたらしい。……全く気が付かなかった。



不味い。もしも非常時の緊急任務の召集だったらどうしよう。まさか爆睡していて気が付きませんでしたなんて云える筈もない。



最悪、命令違反で懲罰対象に……そんな悪い想像が脳内を駆け巡る。





｢…………」




取り敢えず電話帳の中から樋口の番号を呼び出して発信釦を押す。頭では様々な云い訳が浮かんでは消えていく。殆んど掛からずに樋口は電話に出た。





『もしもし塚本ですか！？』

｢え、ええ。あの、昨日は……」

『何回電話したと思っているんですか！！』





怒濤の勢いで通話口から大声が飛ぶ。慌てて通話口から耳を離し、音量を絞った。





｢……あー、それで御用件は」

『芥川先輩が密輸屋カルマ･トランジットの残党に拐われたんです！！ぎりぎり救出出来ましたが……』




成る程。そう云う事か。私は漸く合点がいく。





｢で、あいつは死亡。昨日の電話は葬式の日程の連絡を……」

『縁起でもない事を云わないで下さい！救出出来たって云ったでしょ！』





音量を絞ったのにも関わらず、大音声が鼓膜を突き破った。きーん、と耳鳴りもする。


電話の向こうでぎゃんぎゃん喚く樋口を無視して、あいつでも拐われる事が有るのかと考える。まあ、意識が無ければ異能も使えない。元はと云えば残党を殲滅し損ねたあいつの自業自得だが。



しかし無事に救出出来たなら問題は無い。今回の一件は首領の勅命でも無いようだし。思わず安堵の溜め息を吐く。






『……聞いてるんですか！！』

｢え、何？」

『だーかーら！芥川先輩の意識が戻ったって云ったんです！』

｢えっ」









意識が、戻った。





え、嘘。

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