卒業式/雨音きこ ページ1
涙々の卒業式が終わった。
ただ、信彦の目は少しも湿っていないし、目頭が熱くなっているわけでもない。
教室内で騒ぐ同級生の間をすり抜け昇降口を真っ先に出た。同級生達は、信彦が誘われもしなかったクラス会について盛り上がり随分と楽しそうに見えた。全く羨ましいとは思えないが。
校門と昇降口の間でも、保護者や在校生達がたむろしていて何処にいてもすすりなく声や喜びの声が響き騒がしい。
耳を塞ごうと、スマホを取り出しイヤホンを差すと両耳に当てた。大人びたジャズがイヤホンから溢れ周囲の音がかきけされる。
ジャズの音楽に満たされつつ、PTA会長の母を探すと、案の定多くの保護者たちに囲まれていて暫くは、帰れそうにないことを悟った。
人の渦からふらふらと離れ人目に付かないような処に腰かけた。膝上で頬杖をつくと今日がこの学校にいれる最終日であることを思い出した。
特に思い入れはないこの高校だ。心残りなどは全くない。
ただひとつあるとするならば__
「せーんぱい!」
心残りの声が真上から降ってきた。
顔をあげると桜子の姿があった。人との会話を含め、他人との接触を極力避けてきた信彦を何故か好いていると言う変人な後輩である。また、信彦のストーカーでもある。
「……なにしに来たんだ」
「あれ?珍しー、先輩がちゃんと返事してくれたー!」
「俺だって返事ぐらい出来るわ。で、なんの用だよ」
「はい!第二ボタン下さい!」
「は?」
第二ボタン……現代っ子からそんなのを聞くとは思わなかった。
中学の時はこんなこと言われもしなかった(当然だが)。第二ボタンは、弟にあげた制服に未だしっかりとついている。
「なんで俺の」
「えー?忘れました?私、先輩のストーカー何ですよ?欲しくて当然ですよ!」
自らストーカーと申告する辺りとても潔い。但し、この後輩にはストーカーは犯罪であることを忘れないでほしいと本気で願う。
「だから、はい!」
桜子は、両手を揃えてニコリと笑った。
「……お前ラインのIDくれって言って無かったか?」
「あ。」
桜子は、本気で忘れていたと言う表情をした。けどすぐになおって、
「IDも下さい!」
「どっちかにしろ」
「え!?」
うーんと顎に手を当てて考え込んだ。
やがて、
「…………ID!」
と叫んだ。
「はいはい」
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作者名:文芸部 x他4人 | 作成日時:2018年3月18日 0時