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信彦は、胸ポケットから生徒手帳とボールペンを取り出すとサラサラと書き始めた。


書きながらチラと桜子を伺うと唖然とした表情をしていた。


「はい」


一ページを破いて桜子に手渡すとようやくハッと正気に戻り、


「……今日はやけに優しいんですね」


「卒業式で浮かれてる馬鹿な先輩とでも思っとけ


失望したか?」


信彦の周りに桜の花びらが舞うというより台風のように吹き荒れる。


桜子が反射的に目を伏せた。目を開けると花吹雪は止んでいて信彦がただ一人立っていた。


微笑むでも、悲しむでもなく、ただ無表情で桜子を見た信彦を美しいと思った。見とれてボーッとしてしまう。


そんな桜子を見て信彦はふっと笑った。


初めて見る信彦の笑顔にポッと頬が赤くなる。


「まぁ俺的には、失望してくれた方が楽なんだけどな?」


その言葉と裏腹に笑みには遊ぶような楽しげな雰囲気があった。


「失望なんてしないです!」


桜子はブンブンと首を振った。


「私は、先輩が好きなんです」


そのまま溶けるようにふにゃりと笑った。


「うっわぁ……」


「はいっ!えへへ」


桜子は、目を細めて笑い髪を掻き上げた。


別に誉められてはいないのだが、照れるようにしていると、突然、フワリと暖かい感覚に包まれた。


驚き、目を開けると目の前には信彦の後頭部が。


数秒後、状況を理解した。


「ちょっ、先輩、なんで私に抱き付いてるん、ですか!?」


頬が赤くなるどころではない。慌て果てて手が宙をさまよう。視線も何処をみれば良いのか分からない。


ただ分かるのは、肌寒い今では、信彦の温もりが心地よく感じることのみ。


「いや…なんかな…」


耳に吐息が掛かる程の距離にまたも心臓が跳ねあがる。


「ちょっと素直になろかなぁ…なんてな」


「す、素直に!?」


気が付くと右手に何かを握っていた。


見ると、


「ボタン!?」


「そ、第二ボタン」


ようやく信彦が桜子から離れた。突然消えた温もりに若干の寂しさがあった。


「お前欲しがってたろ?」


「そ、それはそうなんですけど…」


「言ったろ?素直になるって」


呆れたような目を桜子へ向けた。


桜子は、ずっと紅かった頬を更に赤に染めた。


「そ、それって」


「ふっ、ようやく分かったか」


信彦はじゃ、と手を振り桜子に背を向けた。


桜子は唖然と立ち続けていた。後ろ姿が見えなくなった頃桜子は正気に戻った。


ボッと火が出る程に顔は熱くなっていた。

カウンセラーの憂鬱/短編/Patricia→←卒業式/雨音きこ



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作者名:文芸部 x他4人 | 作成日時:2018年3月18日 0時

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