占ツク学園文芸誌【7】 (ページ4)

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赤いマフラー/外川命ページ4

夜道を1人歩く。
私は自動販売機で買った炭酸飲料を飲みながらため息をついた。
今日は塾の模試の結果返却日だった……のはいいのだが、あまりにも成績が悪かったので居残りに。帰りは結局夜の10時だ。
「はぁ、ツイてない」
こんな夜に女子中学生を一人で歩かせるとはどうなのか、とか考えながら怖さを紛らわせるために私は首に巻いたマフラーに顔を埋めた。

静寂に包まれているせいで、いつもより周りが気になる。物音がやけに少ない。
ビクビクしながら私は少し歩く足を早める。
私がこんなに怖がっているのにはワケがある。
“すずもとさん”の噂を聞いたからだ。
その噂とは、“鈴木さん”と間違えられすぎた鈴本さんが怒って鈴木さんを襲う、というもの。私はこの噂を聞いて鈴本さん理不尽すぎるな、と思った。
不運なことに、わたしは鈴木なのだ。
だからこうしてビクビクしているわけだ。

私の大きなため息もただ暗闇に溶けるだけ。鈴本さんの噂なんて思い出さなければよかった。
そのうち私は異変に気づいた。
家に着かないのだ。
塾から家は暗いとはいえ一本道だから、迷うなんてない。
「どういうこと……」
周りの景色は暗すぎてまともに判別出来ない。
携帯の明かりを使おうと鞄を探るも見つからない。

「あ……っ」
そうだ、塾で使った。私はちゃんと鞄に入れたか？入れてない。机の上だ。
チッと私は舌打ちしてさらに足を早める。
かれこれ15分ほど歩いた。
「なんで着かないの……」
普段「鈍い」とか「鈍感」とか言われている私でもさすがに気付く。
何かがおかしい。

その時、後ろから何かが風を切る音が聞こえた。
「見ーつけた」
その幼い女の子のような声とともに、私のマフラーがものすごい力で引っ張られる。
「な……に……だ、れ」
首が締まる。苦しい。
「お姉ちゃん知らないの？鈴本、だよ」
後ろから首を絞められているせいで顔が見えない。
でも、私だってわかる。
こいつが“すずもとさん”だ。

「や……めて離し……て」
水飴のように視界が歪む。酸素が足りない。
「ありがとう、チャンスをくれて」
私の首から手が離れる。
でももう逃げ出す力なんてなくて私は膝から崩れ落ちる。
「これから私があなたとして生きる」
嫌だ！私は私！他の誰でもない！
反論したいけど、声が出ない。
「次のすずもとさんはあなたよ、鈴木綾」
その言葉と同時に私の意識は朦朧としだした。
私である“鈴木綾”が最期に見たのは舌なめずりしながらニヤリと微笑む“鈴木綾”だった。