殺人鬼。/ページ2/時雨 ページ6
月明かりに照らされて怪しく輝く彼女の瞳はこの世の全てを見据えているようだった。
「ねぇ、この人達みたいになっちゃうの?」
「…」
何も言えなかった。
生きていてこんなにも魅力的な人間は男の中ではない経験だった。少女とは言え、この際に至ってはもう年齢なんて関係なかった。
それが、息絶えた姿と化したら…
にんまりと口元が弧を描く。小さく見える黒い口は何者も吸い込む、闇の夜を感じさせるものだった。今にぴったりの色だった。
「ねぇ、おにーさん。おにーさんは、好き?死んだ人。」
唐突に聞かれて、少々驚きの色を見せてしまったが冷静を装った。
口を開き、答えようとした。魅力的で好きだ、と。
そして、踏み止まった。待て、そもそも答える必要なんて無いのではないか。殺人現場に突如現れた少女だ、まともな奴じゃない。
「…私は、嫌いじゃないよ。」
ぽつりと、まるで水たまりに落ちる雫のようだった。嫌いじゃない…好きでもないとも取ることができるこの言葉。曖昧にも程があるだろう。
普通の人間であれば、その意味を問うだろう。だが、この状況で少女に心を奪われるような常人ではないこの男に常識は通用するはずもない。
寧ろ、その言葉ごと受け入れていた。
そして、もう一度口を開いた。
「…俺も。嫌いじゃない。」
「そうなんだ。一緒だね。」
ふわりと微笑む彼女の姿は実に美しかった。揺れる髪、潤んだ唇、微笑んだ際に細くなる瞳。この一瞬を何かに納めておきたかった。写真とかじゃなく、そのままを。
それと同時に更に男を惹きつけた。片手で数えられるような会話しか交わしていないのにも関わらず、このような表情を見せるのだ。もっとずっと一緒にいたら他にどんな表情を見せるのだろう。早くも心を躍らせた。
「おにーさんはさ、なんで嫌いじゃないの?」
「魅力的…だから。」
へぇ、とまた微笑んだ。目を細め、こちらを見据えた。まるで、そう、例えるならば、獲物を見つけた蛇、とでも言うべきだろうか。
「じゃあ、君は?」
「私は…なくちゃならないから、嫌いになれない。」
なくちゃならない。その言葉に違和感以外何を覚えることだろうか。死が必要?嫌いになれない?
ぽつりぽつりと吐き捨てられた言葉のピースを埋めていくがいつまで経っても完成しないまま。
「変だと思う?私のこと。」
「いいや、全く。寧ろ魅力的だ。死人よりも。」
「それは良かった。…貴方になら教えてあげる。」
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水素化リチウム@元.えーた。指示薬love(プロフ) - お煎餅さん» ありがとうございます。次号も頑張らせて頂きます (2017年12月4日 16時) (レス) id: 7f312343b0 (このIDを非表示/違反報告)
お煎餅 - 水素化リチウムさんのお話切なくて好きです。次号も楽しみにしてますね。 (2017年12月4日 10時) (レス) id: 22c60aa3a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:文芸部 x他5人 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月19日 7時