一瞬でも ページ35
……彼女は本当に、あの日見た一番星のようだ。キラキラと輝いて、手をどれだけ伸ばそうとこの手は届かないのだ。あの輝きに、触れられることはない。例え、どれだけ望もうとも。どれだけ祈ろうとも。それでも、
……それでも俺は、彼女の手に、触れていたい。一瞬でもいい、彼女に触れていたいのだ。
……まだ、この手は彼女に届くだろうか。
威「……シンスケ、」
高「あ?」
威「……ちょっと行ってくる」
……いや、届かせるしかない。
俺はそう言うと、シンスケの横をすり抜け部屋を出た。俺に用があったのか部屋の前にいた阿伏兔にぶつかりそうになるけれど、それを避けて俺は廊下を駆け出した。
阿「え、あ、おい団長何処いくんだ!?もう出航だぞ!!」
高「……精々、後悔はしねェこったな」
……夢中で走っていて、後ろのそんな声なんて俺の耳には届かなかった。
…後悔を、しないために。
船を出て、いつも歩いていた道を走る。空は、あの日彼女に出会った日と同じように、茜色に染まっていた。トンボが優雅に飛んでいて、西側はもう藍色になりかけている。秋が近づく風が、夏のかおりに混ざって吹いた。
走って走って、たどり着いた砂浜に繋がる階段。それを迷わずかけ降りて、白い砂浜に足を踏み入れまた走る。
……小さな足跡があることに、俺は気づく。
ここには、彼女がいる。俺はそう思う。そう思っただけで、心が弾む。伝えたいことが、今にも溢れてきてしまいそうになる。息切れをして、それでも足を止めないまま走る。足の止め方を忘れてしまったかのように。
ー・・そして、
威「!!」
……漸く見つけたその姿に、俺は目を丸くする。
しゃがんではいなく、立って空を見上げている彼女が、そこにはいて、俺は少し距離を取って足を止める。
威「…A、」
……息切れをしながらも彼女の名前を呼ぶと、彼女はゆっくりゆっくりと、その髪を風に揺らしながら俺を見据えて、
「……来たね」
……ふんわりと、笑った。
茜色に照らされて、優しい影をその笑顔に落とした彼女は、とても綺麗で、今にも消えてしまいそうなほどに儚い印象だった。何かに直接掴まれたかのように、胸が締め付けられる。
ザアア……という波の音だけが、その場に満ちていて。彼女はその海に視線をやってまた口を開いた。
「……もう、来ないんじゃないかと思ったよ」
…と、そう、優しげな声で呟いた。まるで、独り言のように。
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月兎。(プロフ) - ピピコさん» ふふ、今だにみに来てしまいます笑。私も作品をかいているのですが昔みた時のこの小説の印象が強くて。私の小説はピピコさんの小説に結構影響されてます。これからも頑張ってくださいね!素敵でした! (2018年4月6日 18時) (レス) id: 62fe788d65 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 神威いのちさん» 神威いのちさん!ありがとうございます!!5回も!!たくさん読んでくれて嬉しいです!こんなシーンが書きたいとかシーグラスを使ってみたいとか、そんな私の嗜好が詰まったお話でしたが、お楽しみ頂けたなら幸いです!読んで頂きありがとうございました! (2018年3月10日 15時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 月兎。さん» 月兎。さん!ありがとうございます!!わぁぁ探してくれたんですか…!初めて書いた神威さんのお話なので、すごく考え込んだんですけど、そう言って貰えるなら書いて良かったなぁと心から思いました!情景描写も頑張ったので嬉しいです!ありがとうございます! (2018年3月10日 15時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
神威いのち - むちゃくちゃ感動しました!何回見ても飽きません!因みに私、この作品5回くらい見たんですけど、何度見ても涙が止まりませんでした! (2018年3月10日 14時) (レス) id: 28f8b922b6 (このIDを非表示/違反報告)
月兎。(プロフ) - 思わずため息が出るほど素敵な作品でした。以前この作品を読んでもう一度読みたくて、探してまでここに来ました。語彙力ないのは許してください笑。一つ一つの表現が綺麗で、実際にそこにいるかのような文章でした。素敵です。最高でした!! (2018年3月1日 15時) (レス) id: 62fe788d65 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年7月28日 21時