嫌だ ページ32
……彼が、神威くんがあの場所に来てくれてから、私の世界はキラキラと輝き出した。一人だった世界に彼が現れて、この日々が特別なものになった。それなのに、そんな彼が居なくなるなんて、分かってたはずなのに、まだ受け入れられなくて。
……きっと、受け入れたくないのだろう、私が。
…昨日、一人で家に帰る途中に吹いた風。髪をふわりと揺らし、いつもとは少し違うにおいが鼻に掠めた。でも、なんだか懐かしいような。
……あぁ、そうか、秋風か。
…季節によって、風から運ばれてくるにおいが違うと思っているのは私だけかは知らないけれど、私はそう思った。もう、一つの季節が終わろうとしてる。
……夏が、終わろうとしてる。
…この夏が続いてくれたなら、ずっと神威くんと一緒に居ることが叶っただろうか、いや、そんなことはないか。
…ずっと彼と居られたなら、どれたけ幸せだっただろう。
…もし、あの場所で、彼に出会わなければ、どれほど楽だっただろう。
事実は変わらないのに、現実を受け入れられなくて、未だに私の世界が色褪せてくれないから、とてもとても、苦しい。
……私の世界から、彼の色が消えてくれないのが、苦しい。
「…好き、なのに…」
……こんなに好きなのに、と。
……このまま好きって言えないまま、もう会えなくなるのかな。
……このまま、もう彼と会わないまま、離ればなれになっちゃうのかな。
……それは、嫌だなぁ。
起き上がって、ベッドから降りて、私はシーグラスや貝殻を入れてある宝箱をそっと撫でた。彼と私を、結び会わせたものだ。色とりどりの輝きを見つめて、目を細める。
…この輝きがほしくって、私は手を伸ばした。けれど、
……私は彼に、一度として手を伸ばそうとしたことがある?
「…っ、」
……手を伸ばそうともしないまま、諦めるのは、もっと嫌だ。
そう思った瞬間、私は弾かれるように部屋から飛び出して、家を出た。傘も持たないまま。
…こんな雨の中、私はあの場所に向かおうとしてる。やっぱり私はとことん変な奴なのかもしれない。けれど、仕方ないじゃないか。
……あそこに行く理由が、漠然としたものなんかじゃなく、もっと明確なものになってしまったのだから。
『好きだから』『会いたいから』。
『……伝えたいことがあるから』。
幾つもの理由が、雨の中、私をつき動かす。
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月兎。(プロフ) - ピピコさん» ふふ、今だにみに来てしまいます笑。私も作品をかいているのですが昔みた時のこの小説の印象が強くて。私の小説はピピコさんの小説に結構影響されてます。これからも頑張ってくださいね!素敵でした! (2018年4月6日 18時) (レス) id: 62fe788d65 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 神威いのちさん» 神威いのちさん!ありがとうございます!!5回も!!たくさん読んでくれて嬉しいです!こんなシーンが書きたいとかシーグラスを使ってみたいとか、そんな私の嗜好が詰まったお話でしたが、お楽しみ頂けたなら幸いです!読んで頂きありがとうございました! (2018年3月10日 15時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 月兎。さん» 月兎。さん!ありがとうございます!!わぁぁ探してくれたんですか…!初めて書いた神威さんのお話なので、すごく考え込んだんですけど、そう言って貰えるなら書いて良かったなぁと心から思いました!情景描写も頑張ったので嬉しいです!ありがとうございます! (2018年3月10日 15時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
神威いのち - むちゃくちゃ感動しました!何回見ても飽きません!因みに私、この作品5回くらい見たんですけど、何度見ても涙が止まりませんでした! (2018年3月10日 14時) (レス) id: 28f8b922b6 (このIDを非表示/違反報告)
月兎。(プロフ) - 思わずため息が出るほど素敵な作品でした。以前この作品を読んでもう一度読みたくて、探してまでここに来ました。語彙力ないのは許してください笑。一つ一つの表現が綺麗で、実際にそこにいるかのような文章でした。素敵です。最高でした!! (2018年3月1日 15時) (レス) id: 62fe788d65 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年7月28日 21時