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No side
「いかがでした?」
後部座席に乗り込んだ伊藤が運転手の坂口斗真の席を蹴る。
「口に出させないでくれますか?」
「すみません。」
「F18を担当する運転手の名前をご存じ?」
「森本です。」
「そうですか。京本派のようですね。」
太ももの上で緩く指を交差させた伊藤は右手親指で左手親指を上から何度も弾いている。伸びた爪同士がパチパチと弾ける音は坂口の心拍数を上げていった。
「知恵をお貸し頂けますか?」
「っ、、と言いますと。」
爪を弾く音が止まる。生唾を飲んだ坂口はバックミラー越しに黒い隈が殺しにかかっているのを見た。
「京本潰しですよ。京本潰し!」
音に合わせて2回座席が蹴られて坂口が身を震わせた。
早く次の場所へ到着してくれ。
伊藤に永久雇用契約をされたのが運のつきだった。ネズミに顔が似て怯えたときが可愛いという理由で召し使いに選ばれた。
今まさに坂口は好物を差し出している。
「京本派の希望であり、社長の不安の種。目を離すのが恐ろしいようですよ。」
「それは、伊藤さんにとって邪魔です、」
「あなたにとっても、ですよ?」
「っ、はい。」
逃げられない。坂口は伊藤と運命を共にするしかないのだ。伊藤の意思は坂口の意思だ。
「直接手を下したいのですが、争いの火種になると社長は言うんです。」
「ですが昨日、」
「死んではいませんよ。しばらく空きがあるだけです。」
「ならもう、」
「それもわからない男でしたか?私に損をさせるつもりですか?もっと役に立ってくださいよ。」
座席の間から身を乗り出した伊藤はニヒルに笑っている。坂口が握るハンドルは汗で滑りそうだ。
「京本を潰せたら自由にして差し上げますよ。」
途端に坂口から恐怖の表情が消える。本当か?とバックミラーで伊藤の顔を確認した。
「よーく考えてください。」
ミラー越しに坂口を見つめながら左耳に囁いた。
「あの時以上に入れ込んでいるんです。」
伊藤の蛇のような囁きが坂口の脳を侵食する。伊藤は同じものを描かせたいのだ。まるで自分が思い付いたかのように錯覚させて、同じ罪を背負わせていたい。裏切れないように。
「もっといい案を下さいよ。今さら怖いものはありません。思い付いていますよね?言ってください。震えてます?」
伊藤が坂口の二の腕をじっとりと擦る。
「何人でも変わりませんよ。あなたはもう立派な
、、、____なんですから。」
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作者名:久遠さん | 作成日時:2021年9月19日 0時