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「新内武彦だ。製薬メーカーの社長だな。」

緩めたネクタイにシワになったワイシャツとボトムスを纏った樹は眼鏡をかけながら調査報告書を渡してきた。昨日帰宅してソファーに倒れこんだんだろう。

目黒から聞いた情報を樹に渡して新内という男について調べてもらった。

その報告を樹の家で聞いている。

「ちなみに、目黒っていうのも有名な地主だったぞ。」

「えっ、そうなの？」

「そう。新内が経営するのは明治から続く製薬会社で、1度息子の清彦に事業継承されたけど経営が傾いてまた代表取締役社長に舞い戻った。清彦には経営の才もお前みたいな人を惹き付ける才もなかったようだし、武彦もまだまだ現役でやっていける年齢だったからな。それに武彦を支持する人間が多かった。それもあるだろ。」

渡された調査報告書には武彦と清彦の写真が張られている。

新内武彦は現在70才で息子の清彦は43才。継承をしたのは今から8年前らしい。

武彦が代表になった当時、会社の経営は相当傾いていてそれを建て直し業績を歴代トップまであげた。それも安定してきて武彦は早めの引退を考えたという。やりきった感があったのだろう。

「じゃあ次引退するときはどうするの？清彦さんにリベンジさせるの？8年経ったら結構変わるよね？」

「いや、それが長女の早苗にって話が出てる。武彦の才を引き継いだのはそっちらしい。武彦は渋ってるみたいだけど。」

「なんで？倒産されるより良くない？」

「男尊女卑的な考えを持ってるんだよ。だから徹底的に清彦を鍛えてるって話だ。弱々しい男らしいし精神的に滅入ってるって。武彦はこんなんならひ孫が生まれて大人になるまでやるなんてほざいてる。死んじまうだろってな。」

樹が片眉をつり上げて俺を見る。そう思うだろ？と僅かに笑っている樹の話に引っ掛かった。