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No side
「あのぉ、、本当に病院に行かないんすね？」
「行かない。」
昨夜目黒は高架線の下でボロボロの男が車に乗せられそうになっているのを発見した。見てはいけないものを見てしまったと震えていたが散歩で近くを通りすぎていった犬が吠えたのに焦ったのかその男が投げ捨てられた。
生きているのかどうかもわからずに目黒は恐る恐る目を閉じたり開けたりしながら動かないその男に近づいた。
高級そうなスーツの腹部には足跡が何個もついている。口の端から胃液が垂れ、額には血液が伝っている。手の甲や耳にも微かな傷が何ヵ所もついていた。
美しかったであろう顔も今はその姿を見ることはない。
「大丈夫ですか？生きてますか！」
「う"っ、、」
男が眉間にシワを寄せて動いた。
「救急車呼ばないと。」
「待て。」
スマートフォンを取り出した手首を掴まれる。虚ろな目が目黒を見た。その瞬間にクッと相手が顔を歪める。
「つけてたのか？俺を。」
「え？、、俺は通りかかっただけっすよ。」
「まぁいい。駅まで運んでくれないか？」
右腕を庇いながら男が上半身をあげる。目黒は腰に手を添えて男を支えた。
「そんな格好で乗れるわけ無いじゃないっすか。てか救急車。」
「なら、、いい。」
立ち上がって壁伝いに男が駅へと進み始める。
「ちょっと！」
頭上で轟々と電車が通過する圧で男がズルッと壁を滑った。
「じゃあ俺の家来ますか！」
咄嗟の判断だった。このまま帰していい状態ではなかったのだ。
「はぁ？」
ハスキーな声でメンチを切られて怯んだ目黒だったが、押されてたまるかと必要以上に近づいて腕を掴んだ。
「生きてるかなとか一生気にすると思うんで！それに、、俺のこと知ってます？よね。俺は知らないんですけど。」
俺の顔を見て「つけてたのか？」なんて俺につけられる心当たりでもないと出てこない。
「人違いだった。すまない。」
「そうっすか。でも連れて帰ります。」
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作者名：久遠さん
| 作成日時：2021年9月19日 0時
