すきなものの食べかた：44 ページ44
*
『 昼に治が教科書貸してた子、仲良いんやね 』
テーピングをしている際に、
伏し目がちにぼそりと彼女が呟いたその言葉は、
どこか刺々しく感じて。
目も合わせずそういうものだから
違和感を感じながらも、昼にあったことを思い出して、中学の頃からの友だちだと答えた。
『 へえ、知らんかったわ…あの子かわいいよね 』
へらりと歪んだ口元と、引きつった目元、
あの日の夜に見た、笑えてない顔で彼女はそう言うも、本心で言っているようには見えない。
まるで、何かを探っているような。
よそよそしく泳ぐ彼女の視線の意味を、
俺は都合よく見出そうとする。
「 まあ、かわいいよな 」
自意識過剰だろうか、
一度することをやめた期待が、また膨らみ始めて、
実際には考えたこともない答えが口から出た。
瞬間、泳ぎ続けていた彼女の視線が
ピタリと落ち着き、自分の唇を噤んだ。
お前の期待していた答えとは違ったか？
これを聞いて、よく思わなかったか？
そうだと俺は嬉しいけど。
その後コートに戻ろうとすると呼び止められたけど、彼女は結局何も言わなかった。
.
「 なあ、ええやん、頼めるの宮しかおらへんもん 」
次の日、思ったこともないくせに
“かわいい”と彼女に嘘をついた女は俺の目の前にいた。 傘を忘れたから一緒に入れて帰って欲しいとのことだ。
人の行き交う廊下で大きな声でそんなことを頼むものだから通行人の視線がいちいち刺さる。
「 なんで俺やねん 」
「 家近いから！ 」
「 わかったから声でかい 」
困った。
いくら中学からの仲でも、さすがに
好きでもない女と相合傘なんてしたくない。
目撃されて勘違いした奴に根も葉もない噂を流されるのも面倒やし。
ふと、人混みに紛れて、
彼女に似た子がこちらを見ているような気がした。
呆然としたような、表情で。
しばらくしてそのまま彼女は踵を返して、
歩き始め、人混みに紛れて姿が見えなくなった。
最後までその表情を変えることなく。
「 なあ宮、入れてやあ、お願い 」
「 …ほんなら傘貸したるから、お前ひとりで入って帰れ 」
「 はっ？じゃあ宮どうやって帰るん！ 」
傘を渡して、彼女の後を追おうとすると、
後ろからリュックを引っ張られた。
散々まわりくどいことをして、
望んでもないことを受け入れて、
表面上友だちでいようと決めたけど、もう全部やめや。
「 好きな子にいれてもらうからええ 」
たしか、彼女は傘を持っていたな。
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うに - すすす素敵すぎてびっくりしました！最後までキュンキュンしながら読みました！ (2021年8月5日 15時) (
レス) id: aca41c32b2 (このIDを非表示/違反報告)
らんたん(プロフ) - こんなにキュンキュンしたのは久しぶりです！本当にありがとうございます。胸が苦しい… (2021年4月19日 11時) (レス) id: 1e7e266fc1 (このIDを非表示/違反報告)
あかね - 終盤泣きました。最高of最高をありがとうございます(真顔)。 (2021年1月16日 16時) (レス) id: f36e099441 (このIDを非表示/違反報告)
黎子(プロフ) - 初コメ失礼します！！終始キュンキュンしっぱなしでした、最高です！宮兄弟が好きな私にとって最高な作品でした！これからも頑張ってください！ (2018年12月18日 0時) (レス) id: 1c7dde52b2 (このIDを非表示/違反報告)
鈕(プロフ) - つくねさん» ありがとうございます〜〜！！そういっていただけてとても嬉しいです；；；； (2018年11月16日 21時) (レス) id: 8b744c9e10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鈕
| 作成日時：2018年2月3日 17時
