すきなものの食べかた：45 ページ45
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「 おい、濡れるで 」
私に向けられた彼の声は、
この狭い一本の傘の中で随分と通って聞こえた。
『 …ありがとう 』
ぼんやりと考え事をしていたけど、
彼の声によって現実に引き戻された。
俺がさすから、と言ってくれた彼のお言葉に甘えて
傘を持ってもらい、雨の降る中二人で肩を並べて歩くこと数分。
治とはじめて話した日に、こうして帰りに
一本の傘に二人で入って帰ったことを思い出す。
状況はあの日と全く同じなのに、あの日とは違う感情が私の中に渦巻いている。
あの日と同じように、妙な緊張から
若干フラフラと傘から体がはみ出ると、
それに気づいて私の腕を掴み寄せてくれる彼の手がどうにも熱く感じた。
「 急にごめんな、傘友だちに貸してしもてん 」
『 …そうなん、別に気にせんといて 』
聞きたいことは山ほどある。
友だちと帰るんじゃなったの？
あの子はどうしたの？私のこと待ってたの？
あの日と、同じ状況なのに。
彼に対する想いはあの頃とは比べものにならないくらいに膨れ上がっていて、この状況に頭は爆発寸前だった。
『 …治、あのさ、 』
「 ん？ 」
今にもくっつきそうな肩、
彼の名前を呼べば、すぐ目の前に彼の顔はあった。
近すぎる距離に、言葉を発しようとしたくせに、何を言おうと思ったのかすら忘れてしまいそうだ。
『 …あの子、中学の頃からの友だちの、
一緒に帰るんじゃなかったの？ 』
「 帰らへんよ、そんなことせえへん 」
傘だけ渡して帰らせた、
という彼の真意が読めなくて、そう、と蚊の鳴くような声で返事をすることしかできなかった。
じゃあ、私は？
前に、私を傘に入れて送ってくれたじゃない、
あの子に、同じようにはしないの？
あの子はもしかしたら、治に送ってもらいたかったかもしれないのに？ 優しいあなたは、そうするんじゃないの？
『 でも、なんで、 』
「 なんでって、なんで？ 」
「 俺が誰にでも、そこまですると思ってるん？ 」
進めていた彼の足が、ピタリと止まって、
体ごとこちらに向けてそういうから、釣られて私も
彼の方へ顔を向けると、やっぱりいつもみたいに何を考えているのかわからない双眸が、私を見つめていた。
金縛りにあったみたいに体が動かなくて、
そこではじめて彼の言葉の意味を理解し始める。
私以外に、そんなこと、しないってこと？
「 言っとることの意味、わかる？ 」
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うに - すすす素敵すぎてびっくりしました！最後までキュンキュンしながら読みました！ (2021年8月5日 15時) (
レス) id: aca41c32b2 (このIDを非表示/違反報告)
らんたん(プロフ) - こんなにキュンキュンしたのは久しぶりです！本当にありがとうございます。胸が苦しい… (2021年4月19日 11時) (レス) id: 1e7e266fc1 (このIDを非表示/違反報告)
あかね - 終盤泣きました。最高of最高をありがとうございます(真顔)。 (2021年1月16日 16時) (レス) id: f36e099441 (このIDを非表示/違反報告)
黎子(プロフ) - 初コメ失礼します！！終始キュンキュンしっぱなしでした、最高です！宮兄弟が好きな私にとって最高な作品でした！これからも頑張ってください！ (2018年12月18日 0時) (レス) id: 1c7dde52b2 (このIDを非表示/違反報告)
鈕(プロフ) - つくねさん» ありがとうございます〜〜！！そういっていただけてとても嬉しいです；；；； (2018年11月16日 21時) (レス) id: 8b744c9e10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鈕
| 作成日時：2018年2月3日 17時
