影と月 (ページ29)

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タカシは私の目をまっすぐ見て

「好きな人誰なん？」

と、これまたそのまま聞いてくる。

「ん～…」

意味も無くドリンクをストローでかき混ぜて。

「俺の知ってる人？」

「どうなんだろう、」

「芸能人？」

「まあ、近いとこ」

「歳は？」

「年上」

これだけの情報では絞るにも絞り切れない。

彼は言う。

「言いたくないんや」

「…うん。知ってたら恥ずかしいし」

「そか」

本当はそれ以上の理由があるけど

この場は掘り下げないでおく。

「なんで…そんな悲しそうな顔してるん？

台本、一緒に読んだときは、…うん」

可愛かった、とでも言いたかったのだろうか。

さすがにこのタイミングで言うのは違うというのを感じたらしい。

そんなに悲しい顔をしているのかな。

あの頃の私は自分のこんな表情、知らなかっただろうな。

「……その人のこと、思い浮かべたら、

そういう顔に自然となってるんだろうけど

その人の周りのことも考えたら、

…なんともいえない気持ちになるっていうか」

同じグループの一員としての彼やメンバー、

一人のアーティストとしての立場、

支えてくれているファンの応援、

私一人の存在で

どれだけの人を傷つけるか、わからない。

軽率な行動に

もはや罪なのではないかと、自分を責めたくなる日もあった。

「好き、なんだけど、

…どうしたって、叶わないんだよね」

「…相手の人はAのこと、好きって言ってくれたん？」

「うん。何年も、何回も」

ぽろり、と

思わずこぼれた一言に

タカシは相当驚いていた。

「何年て…いつから？」

「……デビュー、」

前、なんて言ったら

私もタカシも中学生で。

歳の範囲を考えて

ある程度の人間関係が絞られてしまうと思った。

だってその頃は、

タカシと仲良くなった頃と重なるから。

「…してからかな」

私はここまで来たとしても

嘘で自分を飾ることで精いっぱいだった。

ましてや

ずっと一緒にいてくれた、仲間でも

親友でもあるタカシに

罪を知るという、重い行為をさせるわけにはいかなかった。