初めまして、花嫁さん【赤葦京治】 (ページ20)

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しばらく、返事はなかった。

電話は切れていないけれど、もうなんとなく結末が分かった。

｢……もう、終わりに｣

｢Aさん今、どこにいます？｣

｢……へ？｣

予想の斜め上をいく問いを投げられた。

状況が全く掴めないまま、とりあえず犬山公園にいると伝えると、
赤葦さんはそこに向かうとだけ残して電話を切った。

ブランコを小さく漕ぎながら、しばらく待っていると
息を切らした赤葦さんが目の前にいた。

｢……早いですね｣

｢まぁ、そこまで、距離、ないですし……｣

｢走ってきたのバレバレですよ｣

俯きながらそう言うと、バレちゃいましたか、といつものように笑った。

赤葦さんは、ブランコの前にあるパイプのようなものに腰を下ろして、その長い脚を組んだ。

もう、どうしたらいいか分からなかった。

なんで怒っていないのだろうかと、
なんでいつも通りなのだろうかと。

その様子にも納得がいかなかった。

｢初恋の人と重ねていても、俺は別にいいです。

俺は、今のままでも十分幸せですから｣

その言葉が、私の心をほんの少しだけ解いてくれた気がした。

そうしている間にも、徐々に日は落ちていく。

風によって、夕暮れ時のお腹がすくような香りも運ばれてくる。

このまま、どうするつもりなのだろうか。

少し赤葦さんの方に視線をやれば、

夕焼けに照らされたその姿が
私の罪悪感をより一層深めてくる。

なのに、こんな私に笑いかけてくれるなんて。

｢良かったら、初恋の人の話聞かせてください｣

赤葦さんはゆっくり立ち上がって、
隣のブランコに横向きで腰を下ろしてから
私の頭をそっと撫でた。

｢……私が、小学生の時の話なんですけどね、｣

それはまるで魔法のようで

私は、いつの間にか話を始めてしまっていた。

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