Day05 ページ5
聞こえて来た声に、舞台の方を向かざるを得なかった。
だって今まで、ずっと「舞台」に見えなかったその姿が、その「舞台上」にいるのだから。
「何で…何で、おい！」
舞台上に上がろうとしたのを、見えない何かが遮る。
『むかーしむかし、そうだな、大体50年くらい前？だから少し昔の話。
お偉いさんに切り捨てられた元軍人9人が、安住の地を求めて色んな国を回ってたの』
そんな言葉と共に始まった長い長い独白を、自分は一言一句聞き逃さずに、今まで見たどの舞台よりも真剣に観ていた。
舞台上の誰かに語り掛けるような、その虚空に向けられた視線の先はきっとそうなのだろう。
『退廃した国で毎日命をベットするようなギャングみたいな生活を送ったり、
代償を支払って得た童話の特殊能力を使って魔物と戦ったり、
波に攫われて東洋の国に辿り着いた時は、妖術なんてものも教えてもらったりした』
その台詞のさすものは、今まで自分が見て来た舞台だ。
宮舘と渡辺が主役だったあの退廃的な世界、
ラウールが主役だったあの童話と唯一こちらに干渉してきた世界、
目黒と向井が主役だった和風の世界、
自分の中で確信的な台詞を告げてから、舞台は阿部と佐久間を主軸として進んでいく。
「…会いに、逢いにいかねえと、いけないんだ、」
立ち上がって、走る、走る、走る！
「舞台」の行く末なんて知らない。自分は、「彼」に逢いに行かないといけないから！
腰に携えた、自分の持ちなれない1本の剣を、返しに行かないといけないから！
この舞台はきっと、「彼」の「人生劇場」だったのだ。
本来なら、たった1つの公演でしかない、1つしかない「舞台」を、「彼」は何度も、何度も何度も経験したのだ。
頭でわかって、それでいて嘆いて、自分で転がっていく様子を嗤って、あぁ、きっとあのヘラりとした顔で笑っていたのだろう。
寂しいも愛もわからなくなってしまっているかもしれない。
「人間」の形を投げ出してしまっているかもしれない。
抱えきれない、こんな「言葉」だらけの存在証明を、1人で背負わざるを得なかったのかもしれない。
(…俺が、最期にした選択の所為で、壊れてしまっていたら、)
走り切った先で、やっと見つけたしゃがみこむ男の後ろ姿に、その悶々と考えていた思考が零れ落ちた。
「ふっか！」
振り絞ったその声に振り向いた、やっと会いたかった「彼」の目は、散々纏わりついていた紫煙が抜け落ちて元の、ずっと思い出せなかった甘茶色に戻っていた。
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ゆづ - やばいです…。思い出してこれだけでも泣きました (2020年8月28日 22時) (
レス) id: deb2d46d42 (このIDを非表示/違反報告)
湊都(プロフ) - そら。さん» ご指摘ありがとうございます！ (2020年8月26日 7時) (レス) id: 9124562c1c (このIDを非表示/違反報告)
そら。 - Day 5のところなんですが、和風の世界の主役は『目黒と向井』ではないのでしょうか…？間違っていたら申し訳ありません (2020年8月26日 6時) (レス) id: c6c4969a03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：湊都 | 作成日時：2020年8月22日 14時
