�饑里了� ／川上 r ページ26
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春の陽気はもうなく、木々は緑に装飾されており、大学の雰囲気を一層爽やかにし、空は青く澄み渡っていた。雲一つない青空をぼーっと見上げながら僕は目的地へ向かう。
今日はTQCの活動日だ。
会長の僕は待ち合わせの時間より早くクイズ研究会の部屋に行った時、ピコンという早押し機が同時になったのが聞こえた。
音のした方に視線を向けると、人の姿があった。
1人の少女が真剣な目をして何も書かれていないホワイトボードをじいっと見ていた。
……TQCの中で今まで見たことがない。インカレサークルだから他大学の人なのだろうか。
ただ、鍵を受け取ってるとしたらおそらく……他者からは信頼を得ているのだろう。
僕は見たことなかったから話しかけるのを躊躇したが、やがて集中が切れた少女がこちらに気づき、はにかんだ。
「あ、すみません。勝手に押しちゃって」
「いや、いいんですけど。……TQCの人ですか？」
「んー。スタッフみたいな感じです。ここに伊沢拓司っていますよね」
「いますね。お知り合いで？」
「昔からの仲ってやつです。今日はTQCに自己紹介しに来ました」
ぺこりと深く頭を下げる目の前の少女にたじたじになりながらお辞儀を返す。
「Aです。みんなからそう呼ばれてます」
「聞いたことはあるかも。川上拓郎です、カワカミタクロウ」
「伊沢さんから話をお伺いしておりますー」
僕はAと言う少女……否、大学生なので少女では間違いではあるが、見た目はまさしく少女なのでこれからもその表記をするつもりだ。
僕は、その子の隣に椅子を用意してそこに座る。
よく見ると、清楚な服装をして色白い肌とよく似合う。
なんて、当時の僕はとっくに少女に惹かれていたと思う。
年齢を聞くと僕の方が年上だったので「じゃあタメ口でいいですよ」とか、「呼び捨てでいいですよ」とか、なんだかんだあって僕はAちゃんと呼ぶようにして、少女は川上さんと呼んで、なるべく砕けた話しかけを心がけるようにした。
「なんで今日なん？」
「んー、伊沢さんと私の気が向いたから」
「気分屋なんですね」
「まーね」
軽い返事とともにん〜と大きく伸びをするAちゃん。
なんだか不思議な子だ。ほわほわしてるっていうか、宙に浮いてるっていうか。
手で掴むことができない、例えるなら雲みたいな存在だ。
なんて、彼女の長い睫毛の先を見つめながら思っていたのだ。
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