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男が伸ばした手が宙を切る。
触ろうとするから、勝手に体が動いてしまった。敵意が無いって分かってても、やっぱり触られるのは怖い。この感覚は一生消えないだろうな。暗部を始めた頃からずっと、毎日のように狙われてきたから。それにしてもこの男、知らない人間に触ろうとするなんて。つい、睨んでしまった。
「悪かった」
『気にしてない』
次から気をつけてくれれば。まぁ次は無いだろうけど。さて、早く移動しないと。再び足を動かした。
「お、おい。何処に行く気だ?」
『寝床を探しに』
他人のことなんて放っとけばいいのに。焦ったように尋ねてくる男に呆れながらも足を進めた。
「ちょっと待て。お前此処がどこだか分かるのか?」
はぁ、こいつは私を放っておいてくれないのか…仕方ない。足を止めて嫌々振り返った。
『川が側にある。ここは土手のような場所』
目を覚ました時から聴覚と嗅覚、触覚から情報が入ってきている。知りたくなくても勝手に情報収集してしまうから便利といえば便利なんだけど、やはり疲れる。
「それで?宿の場所が分かるのか?」
それは分からないけど、別に宿じゃなくても寝れるし。というか、むしろ宿じゃない方が安心できる。一番怖いのは人間だから、人がいない森とかの方がいいな。
「お前…目が……」
私の行動を見て、目が見えないって分かったんだ。意外と頭の回転が速い男みたい。
『気配が分かるから問題ない』
「それでも大変だろ?お前、名前は?俺は坂田銀時だ。銀時でも、銀さんでも好きに呼んでくれ」
名前を聞いてどうするつもりだろ。もう2度と会うことなんて無いのに。でもまぁ、少しは世話になったんだし。
『A』
「A、お前俺んちに来い」
『…………は?』
さっきは頭がいいと思ったけど間違いか。絶対に頭がおかしい。他人を家に上げるなんて。
『お前、頭大丈夫?』
「失礼な奴だな。銀さんの硝子のハートが粉々に砕け散ったよ…」
おどけて言っているけど、悪い人間ではないと思う。汚い人間は今までたくさん見てきたけど、この男は嫌な感じは全くしない。
『危険』
「何が〜?」
『他人を家に招く事』
忠告はしたから、もう行くか。さっさと人がいない場所を見つけないと、少し疲れた。さすがに目が見えなくなっていた事は少なからず私の心にショックを与えていたようだ。
「A〜。ちょっと待てって」
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作者名:コロ助 | 作成日時:2017年3月24日 0時