【アネモネ荘にようこそ】←の派生小説ですよ

結香は誰にも悟られずに恋して誰にも悟られずに失恋してそう（偏見） ページ47

「ちぇんちぇ、しゃよーならー！」
「きゅーびしゃま、いちにちごちどうありがとうございまちた！」
「ゆいかおにーちゃん、また教えてほしいの！」

「はいはい、またね、日戸(ひのと)、水鏡(すいきょう)、探女(さぐめ)」

鬼の子供である日戸、人魚の末裔である水鏡、悟りの子供の探女が手を振って神社からおりていく。
僕をゆっくり手をふりかえし、見えなくなるまで三匹を見送った。子供は元気で良いなぁ。

駆け降りていった探女達がきゃっきゃと会話に花を咲かせているのを確認し、僕は神社に戻った。
神様のいない、寂れた神社だ。

神様は人間からの信仰心で成り立っている。信仰が強ければ強いほど神の力は強くなる。
しかし信仰が弱ければ、だんだん体は消えていき……最悪死に至るのだ。
それは死といえども人の子とは違う、完全なる消滅だ。

この神社は、そんな哀れな神達のように、人に捨てられた神様だった。

『結香様。何を考え込んでいらしているのですか？』
「疾風か。いや少しな。
……まだお前は、あやつらと共に帰ることは出来ないな」

キヨメの疾風が、鳥居の奥から話し掛けてきた。
疾風は最近うちに来たちびで、聡明で落ち着いた少年だ。
毛先の白い痛みのない黒髪に、鮮やかな紅い目の少年で、キヨメという物凄く穢れに弱く貴重な妖怪なのだ。
疾風はその穢れへの耐性の無さや、誘拐されやすさなどを考慮し、鳥居の注連縄から外へ出すことはできない。

アネさんを迎えにいきたいだろうが、我慢を強いる形となった。

『いいえ。本来あいつのことを覚えて居られることだけでも幸運です。
もう一度結んだ縁は、あいつを笑顔にするって信じていますから』
「……ひゅーう、かっけーね。
あぁそうだね。赤くて綺麗な縁だ。この僕の名に懸けて、幸せな結末をよんで見せるさ」

そのためには頑張らないとねと疾風の小さな頭を撫でた。
ねぇアネさん

いつか外に出てみませんか。

いつか笑ってみてくれませんか。

いつか僕と。

いつか……

「やめてくださいよ結香様！」
「はいはーい。善処するよー。
さ、木刀を取りな。早く迎えに行かないと」


いつか僕と、永久を生きてみませんか？


抱いた淡い恋心は、
伝える間も無く溶けて消えた。

それでもいい

「アネさんには幸せになってもらいたいしね」

恋心の代わりに、綺麗なこの感情が見られたのなら。
アネさんが幸せになるのなら


悪戯狐の愛し方 完

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