karte 162 −独白− ページ2
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あれはいつのことだったか……
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『術式終わり……ふぅ…あとはよろしく♪』
『はい、お疲れ様でした。』
オペを終えて、あとの処置を第二執刀医に任せると
ふと思い出した様に声をかけられた。
『…あ、ねえ君、今日の器械出しすごく良かったよ。
タイミングも、渡し方も。
君、名前は？』
『あ、あの！//…山口、です…//』
『山口さんか…また、次もよろしくね♪』
『は、はいっ！！///』
あの人から初めて声をかけられて
舞い上がりそうなくらい嬉しかった…
病棟勤務から、オペ室に回されてからずっと
自分には向いてないと思ってたから…
でも何よりも、あの人が私の存在を知ってくれたことが
気付いてくれたことが、嬉しかった…
その後も、何度かあの人のオペのお手伝いをさせてもらって
そしてある時、あの人に食事に誘われたんです。
思いがけない出来事に舞い上がり
もともと強くもないお酒を
勧められるままに口にしてしまって…そして……
女に生まれてきたことの意味を…
本当のよろこびを…
あの人は教えてくれました。
そんな私が
あの人に溺れるのに時間はかかりませんでした。
あの人の全てに、私は夢中になりました。
だからあの人に頼まれたことなら
なんでもやりました。
自分はあの人の役に立てている…必要とされている…
そう思えて、有頂天になっていたんです……
でも、ある日気づいてしまった…
あの人の瞳の奥にある、深い深い哀しみの色に……
そしてそのさらに奥深くに
暗い憎悪の炎が灯っていることにも……
それは、私にも覚えのあるものでした。
母が、自らの命を絶った時
そしてその理由を知らされた時
私もきっと同じ
私をその暗い淵から救い出してくれたのは
看護学校の恩師でした。
あの恩師の存在がなければ
今の私はここにはいないでしょう。
だから私も、なんとしてもあの人を
暗い絶望の淵から救い出したかった……
でも
私にできることは何もありませんでした。
あの人の瞳に
私は映ってはいなかったから……
あの人の瞳に映っているのは
今は亡き愛する家族の幻と……
そして、もう一人………
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