生きた証を、この世界に［桃］II

60 : ms ページ12

.




「てごし、あのね、」




小山がある程度話終わったあと、俺は最後に一つだけ、話したいことがあった。




「てごしは一生懸命だから...... 仕事も頑張りたい、病気も治したい、どっちも叶えたいんだよね？」




うるうるした目をして、俺の方を見て、恐る恐る首を縦に振る。




「そうだよね。でも、どっちも頑張ろうとするから、どっちも上手くいかなくなっちゃうってことは、気付いてる？」

「.......っ、うん、......がんばれば、がんばろうとするほど、ぜんぶっ、うまく、いかないの......っ、」




そこから溢れる涙が止まらなくなって、手越は子供みたいに泣いた。




上手く言えないなら、全部全部話せるように、俺らが誘導してあげるよ。




不器用な手越が、不器用なりに悩んで、それでも上手くいかない時の助け舟。




「じゃあ、てごし。約束しよう」

「ぐすっ...... やくそく、......？」

「そう。約束。まずは、病気をちゃんと治そう。その間の仕事は、小山も言ったみたいに、出来る範囲でここに来るから。もう一人だけ参加しないなんてことはさせない」

「うんっ......」




それから、




「体調が良くなってきて、退院出来たら、また少しずつ一緒に頑張ろう。焦らなくていい。絶対置いていかないから。不安になったら、何回でも手繋いであげるから」

「うんっ...... っ、おれ......」




泣いてるけど、力強い目。俺の方をしっかり見て、手越がやるって決めた時の目。




「おれ、っ、時間かかっても、絶対、みんなのところに戻るから......っ、だから、待ってて、くれる？」

「そんなの、当たり前じゃん」




なんでもかんでも精一杯。自分で自分を追い込んじゃう。そんな手越を楽にさせてあげられるのは、きっと俺らだけ。




周りの目なんて気にしないで、手越が楽しいと思えるように生きればいいよ。今までそのわがまま、否定したことないでしょ？




.

61 : tg→←59 : ky

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す