【文スト】肆 全身黒の、美しいひと。【男主】

捌拾捌. 契約を ページ9

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【フィッツジェラルド 視点】









Aの体を強く抱き締め、首筋に顔を埋める。


白い肌に浮かぶ紅い痕は、私が付けたもの。







「…僕が貴方を愛さないのは、貴方のためです」


フィ「…何だと、？」







頭上で、ぽつんと言葉が響く。

…彼が私に愛の言葉を囁かないのは、まさか私のためだと言うのか。






「僕には、貴方の家庭を奪うことなど出来ない」







私の肩を優しく押して、穏やかに微笑むA。

何故、こんなにも美しく微笑むのだろうか。




心が締め付けられるように苦しい。






フィ「…そんな理由で、私を愛せないというのか」





かすかに、声が震える。


彼は静かに頷く。







フィ「…A、私は君を愛している。狂おしいほど君に恋焦がれた。
どんな手を使っても、その心を手に入れたいと、」







ふと彼の目を見ると、不安げに揺れている。





どれだけの感情を、彼はその胸の中に押し込んでいるのだろう。


どれだけ色々なものを、抱え込んでいるのだろうか。







「…それで、僕をどうするんです」

フィ「A…」


「彼が逃げた以上、僕を正式に人質とするのが最善です。
そうすれば、…貴方は僕を、意のままにできる」






穏やかな声。





フィ「…君は、それでいいのか」


「ええ。ですが、僕は心までは囚われない」

フィ「…成程」






彼が、私を見つめる。

優しい表情とは裏腹に、その眼差しはまっすぐだ。






フィ「ではA、抵抗はするな」

「御意に」





そう頷いた彼の額に、そっと口付けた。



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