【文スト】肆 全身黒の、美しいひと。【男主】

佰壱. 彼の異能力 ページ22

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物凄い音と勢いで、敦くんの体が壁に叩きつけられる。


そっと端末を手に取り、壁の方を見る。





フィ「秘訣その3。チャンスを与えられた人間の行動は読みやすい」

「…勝利を確信した人間の行動も、読みやすいですね」






ガチャリ、と銃口を向ける。


きっと今、僕はやけに穏やかな笑みを浮かべているだろう。






「…敦くん、立てる？」





視界の隅で、敦くんが起き上がるのが見える。






フィ「ほう、今の蹴りで倒れんか。大したものだ」

「…Votre un idiot、欲しい物は一度にひとつしか手に入らないというのに」






Votre un idiot、…フランス語で、『愚かな貴方』という意味だ。





フィ「いいだろう、1万では失礼だったな」




彼は懐から紙束を取り出し、それを高々と掲げる。


…更に金をかけるつもりか。







フィ「これは俺が保有する有価証券の一部だ。10万ドルある。
…俺の異能力、紹介がまだだったな」







僕はそっと溜息をつく。


勿論彼の異能力など何回も見てきたのだから、僕の目は紅くならない。






フィ「異能力、【華麗なるフィッツジェラルド】」





そう言った瞬間、彼の体が光に包まれる。

…彼の異能は、かけた金額の分だけ身体能力を強化させるものだ。





その姿に一度は憧れもしたのだと思うと、少し哀しくなる。






「…」





此処にいると、自分を見失いそうになる。

…自分が何者で、何をするべきか。



だが、そんなことは分かりきっている。






僕は、…この男の謀略を止めなければならない。




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