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「営業は不安やと思うけど、リサーチしとけば乗りきれるから。とりあえずこれ覚えて」
はい、って青のファイルを手渡す。
このファイルにはお得意様ばっか載ってるから、これの暗記は新入社員の第一関門。
これをどのくらいで覚えられるか、でソイツの仕事の出来具合を計ったりするわけや。
新入社員の始めなんかテストされてばっかりやから、気いなんて抜いてられへん。
「…ふぅ」
自分のデスクに戻って、ファイルとにらめっこしてる渋谷君を見て、少し安心。
俺は午後から使う資料の確認。
「…もう昼か」
パソコンをシャットダウンして、渋谷君に話しかける。
「渋谷君、お弁当？」
「や、違います」
「なら食堂行かへん？」
渋谷君はぜひ！と立ち上がった。
人見知りとか言う割には人懐っこいやんか。
可愛らしい後輩やん、
「ファイル、覚えた？」
「…松本商事までは」
「おぉ、上出来やな」
褒めれば恥ずかしそうに笑う渋谷君。
「渋谷君って絶対モテるやろ」
「そんなことないですって。俺、無愛想ですもん」
「あ！営業の基本って笑顔なんやけど、作れる？」
「笑顔、作るんすか」
「そ。こーやって」
にこ、と口角上げてみせる。
作り笑顔なんて慣れたモン。
下手したらそこらのモデルより作っとるかも。
「…その笑顔」
「え？」
「さぞ多くの女落としてきたんでしょうね」
「は？」
何、いきなり。
毒すごない？
.
続く (更新停止中)
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