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また新しい一週間が始まる。
新緑が清々しい季節。
朝が一番心地いい季節。
Aはこの季節が一番好きだった。
今日、あの人に会えるかな。
鞄に緑色のハンカチが入っているのを確認する。
A「いってきます!」
またいつもより早い時間─金曜日と同じ時間─に家を出て走り出す。
Aはそんなに足が速いわけではないが、単純に走るのが好きだった。
周りが私を中心に動いているみたい。
景色が私に合わせて動いてくれているみたい。
─電車が参ります。黄色い線までお下がりください。
アナウンスの音が聞こえる。
このアナウンスの人も良い声してるけど、夢の中に出てきた人には遠く及ばないなぁ。
Aはそんなことを考えながら電車に乗り込んだ。
昨日はこの時間に居た人だけれど、今日もこの時間に居る保証はどこにもない。
それに、車両が違えば乗っていたって見つからない可能性がある。
...そう簡単には見つからないだろうな。
Aは半分諦めモードで周りを見渡した。
あっ...
あの人だ。
昨日だってうしろ姿しか見てないし、身長とキャップくらいしか印象に無かったけど。
今日はキャップは被っていないけど。
あの人に間違いない。
また昨日の二の舞になってはいけないと、車両の中で、その男性にじりじりと詰め寄っていく。
あと3m...2m...
なんとか男性の隣に立つことができた。
改めて見ると本当に背が高くて、初めて顔を見たが、端正に整っていた。
Aは勇気を振り絞って、周りにはあまり聞こえないように囁いた。
A「あ、あの...」
??「...?...おれ、ですか?」
男性は長い指で自分を指し、Aを見た。
Aは、綺麗だな、と思った。
同時に、なんともいえぬ既視感を感じていた。
A「そうです。あの...」
鞄の中から丁寧に折り畳まれた緑色のハンカチを取り出した。
A「これ、あなたのハンカチではありませんか?」
??「あっ!」
男性の声に周りが振り向き、二人を見た。
しかし、通勤ラッシュで忙しい人々はすぐに視線を新聞なりスマホなりに落とした。
??「それ、どこで?」
A「昨日、○○駅のホームで」
??「君が拾ってくれたの?」
A「はい。うしろにいたんです」
??「そっか。わざわざありがとね」
男性はAからハンカチを受け取り、微笑んだ。
雅斗「俺、吉原雅斗っていうんだけど、知らない?」
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作者名:華月 | 作成日時:2017年6月18日 19時