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1日目-9- ページ10

「…今日はもう、帰ります。ありがとう、ございました」


帰りの車の中で、私はそう言った。


「……そうか」

左馬刻さんは来るとき同様、肘をついて外を眺めたまま、こっちを見なかった。





あの後、私たちは無論何もしないままホテルを出た。


「お帰りなさ…」


挨拶をする部下さんが途中で驚いたように口をつぐむ。

それもそのはず、異常に早い戻りで、しかも左馬刻さんに手を引かれた私は、充血した目を腫らして俯いているのだから。

しかし気の利く部下さんは何も言わず、ドアを開けて乗車を促してくれた。





「…送ってってやるから、住所、教えろ」


私は駅まで送ってもらって、電車で帰ろうかとも思ったが、正直泣き腫らしたこの顔で電車に乗るのは億劫だったので、有難く従うことにした。



「あ、新宿区の○○町✕✕です……」

「家族は」

「あ……えっと、」


一瞬だけ言葉に詰まってしまう。



「一緒に住んでる家族は…いなくて。でも、近くに兄が住んでます。兄の友達と一緒に」




私の父と母はもういない。ずっと前に、事故で亡くなった。

兄は、私が成人するまではずっと一緒に住んで世話をしてくれていた。

でも、職業柄、昼夜逆転の生活を送る兄にいつまでも面倒を見てもらうのは申し訳なく、私は成人すると同時に家を出た。

時々連絡を取り合ってはいるが、直接会ったのはもうかなり前になる。



「……ふーん」


自分で聞いた割には興味無さげに、左馬刻さんはそっぽを向いている。



それからは、行きとは打って変わって車内は静かなまま、私の家を目指した。

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矢野いと(プロフ) - 百面相さん» こちらこそコメントして頂きありがとうございます。とても力になります!完結まであと少し、お付き合い頂けると嬉しいです。よろしくお願いします! (2019年5月20日 17時) (レス) id: 44c4b06050 (このIDを非表示/違反報告)
百面相(プロフ) - ストーリー物で唯一楽しみにしている作品です!ニヤニヤしながら見させて頂いています…。素晴らしい作品を有難うございます! (2019年5月18日 22時) (レス) id: 5fbb166415 (このIDを非表示/違反報告)
矢野いと(プロフ) - ぱぴぷぺっぽー!さん» そう言ってもらえると嬉しいです。頑張ります! (2019年4月28日 9時) (レス) id: 44c4b06050 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぴぷぺっぽー! - おぁぁぁあ!!!!!凄い好み!この小説!!!更新頑張ってぇぇ!! (2019年4月24日 19時) (レス) id: 73667381e3 (このIDを非表示/違反報告)
矢野いと(プロフ) - すずさん» ありがとうございます!励みになります(^-^) (2019年4月20日 19時) (レス) id: 44c4b06050 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:矢野いと | 作成日時:2019年4月9日 12時

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